15
「い、いたもと………くん…?」
(…うごかないでって、…?)
戸惑って蒼を見上げると、その整った顔から感情の色という色がすべてなくなっているのが見えて、色々な意味で血の気が引いてくる。
それでも、いや、だからこそ、なんでこんな状況になっているんだ。
首に僅かに当たる細くて固い感触に、恐怖で声が上擦った。
なんで、板本君が俺の首にナイフを当ててるんだ。
「まーくんはコイツに嵌められたんだよ」
「…っ、違う…!!」
叫ぶような声が後ろから聞こえる。
腕を掴む力に、ぎゅうと強く力が込められた。
「柊君、お願い。信じて…っ。本当に、僕は柊君を傷つけたかったわけじゃないんだっ!」
「嘘つくなよ。お前さえいなければ、まーくんはこんな目に遭わなかった」
「…っ、」
わからないまま続けられる言葉の応酬に、耳を疑う。
「…と、とりあえず、持ってるものを、おろしてくれないかな…?」
刃物を突き付けられてる状況だけど、俺を殺そうという意思より怯えている気配が伝わってきて、思わず声を出してしまった。
さすがに、ずっと首に近づけられたままだと怖い。
「む、無理…っ、だ、だって、これをおろしたら、蒼様が…っぼ、僕を、…っそれに、柊君にも、信じてもらえないし…っ、どうしたらいいか…っ」
「いたもとく、」
再度、何か言葉をかけようとした瞬間。
嘲るような声音が耳に届く。
「『信じてもらえない』、って…?」
振り返って、ゾクリとした。
蒼と目が合う。
瞬間、全身に凍るような寒気が走った。
さっきよりも瞳の温度が低くなっている。
死を実感するような、ぞっとするほど冷たい視線。
全体の雰囲気が冷気を纏っているように感じるほど、冷たかった。
「”柊真冬なら簡単にヤれるよ。大丈夫、計画通りに進んでるから”」
「…っ、」
その言葉に、びくりと身体が震える。
一瞬蒼が俺のことをそんなふうに思っていたのかとショックを受ける。
けど視線は俺じゃなくて、板本君の方を向いていた。
「そうあいつらに言ったの、誰だっけ?」
「…っ、そ、れは…」
口ごもる板本君の姿に、どくん、と心臓が嫌な音を鳴らした。
そんなわけない、そんなことするわけない、って否定しようとして。
……廊下で”蒼様に近づくな”と言われた時の板本君の表情を思い出した。
「友達になったことも、金を使って男を雇ったのも、全部まーくんを傷つけるための計画だったんだろ」
「……ぼ、僕は、」
「嘘ついても、俺が調べた証拠なら幾らでも出せるけど」
返された言葉に、板本君はついには声を失くした。
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