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答えない…って、ことは…。
流石に俺もそれがどういう意味かを理解し始めていて、首をふるふると緩く横に振った。
「…っ、うそ…だ」
嘘だ。そんなわけない。
そんなこと、あるわけない。
はは…っと乾いた笑いが零れる。
「だって、板本君は友達になりたいって言ってくれて、いつも話しかけてくれて…っ、仲良くしてくれて、」
……俺も、嬉しかった。
わかってるのに。
今のやり取りを聞けば、それがどういう意味だったかなんてわかってるのに。
本能的に拒絶しているのか、脳がそれを受け入れようとなかった。
「板本く…」
首元に当たっていたナイフが外される。
けど、それどころじゃない。
そんなことないって、違うって言ってくれ。
縋るように板本君のほうに顔を向けると、視線を逸らされた。
ショックで、頭が真っ白になる。
呆然としてしまう。
心がぎゅうってなって、視界が滲む。
どうして、板本君は嘘だって言わないんだ。
黙ってるってことは、蒼の言ってることは本当なのか。
今までのは本当に全部嘘だった…?
板本君は、俺のこと友達だと思ってくれてなかった…?
俺のこと…本当は嫌いだった…?
いつも、笑って挨拶をしてくれたのも。
抱き付いてきてくれたのも。
話しかけに来てくれたのも。
(…全部、うそ…?)
身体が震える。信じられない。
信じたくないのに、否定してくれない。
「(……じゃあ、)」
じゃあ、俺は、何のために…あんなことをしてたんだ。
男達にいいようにされる俺を見て、本当は心の中で笑ってたのか…?
「嘘だ…板本君がそんなことするわけない。だって、板本君は、」
そう訴えながら、顔を上げた瞬間だった。
俺の言葉を遮るように板本君の声が強く放たれる。
「……柊君、ごめん」
それは、確実に蒼の言葉を肯定する言葉だった。
一瞬、息を呑む。
何を言われたのか、理解できなかった。
その意味を理解した瞬間、頬をあたたかいものが伝っていく。
出来ることなら、全部嘘だと言ってくれた方が嬉しいのに。
ぼろぼろと頬を流れた涙が、精液と混じった涙が、顎をつたって地面に染みを作っていく。
嘘だ。
こんなの、知りたくなかった。
いやだ。いやだ。いやだ。
そんな感情で胸がいっぱいになる。
「柊君、」
「……っ、も、もう、聞きたく…っ、」
聞きたくない、と耳を塞ごうとすれば、「でもね」と続ける声。
「……確かに最初は柊君を騙して、友達になるのなんか簡単そうで、酷い目に合わせよう、もっと苦しめばいいのにって思ってた」
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