結局、離れることなんてできない 1

***


「絶対、ここから出ないで」


お願いだから、と珍しく懇願するような目で見られて、訳が分からずそれでもとりあえずこくんと頷いた。

ほっとしたような笑みを零した蒼が俺を一瞬だけ強く抱きしめて、「すぐ戻ってくるからいい子にして待ってるんだよ」とまるで子供みたいに優しく頭を撫でられる。

扉が閉まった後、ガチャリと鍵をかける音が聞こえてきて。
そんな無機質な音と、急に静かになったこの空間に、はぁとため息をついた。


「…出ないでって言われても」


この状態でどうやって出ればいいんだ、なんて繋がれた鎖と扉にかけられた鍵を見る。

ガチャッ、ガチャッ。

もしかして逃げれるようになってるんじゃないかと、試しに腕を引っ張ってみても、これ以上伸びないと訴えるようにただ金属音が鳴るだけだった。

身体を床に倒して、ぼんやりと天井を見上げる。
先程の蒼の様子を思い出して眉を寄せる。

今日の蒼は明らかに様子がおかしかった。
何かに追われているような焦った表情をして、苦しそうで。
それに、いつも何故か着物を着ていることが多いけど、今日は特に身なりがきちんとして、髪の毛も整えられていた。

…もしかして今日は蒼にとって特別な日だったりするのだろうか。


「……」


なにがあるんだろう。
そんなことを考えているとコンコン、と何か固いものが当たっているような音が耳に届く。
首を傾げて、どこから音がしているのかと視線をそっちに向ける。

ゴンゴン。


「…っ」


少し視線をずらして、恐る恐る音が聞こえた場所を見る。

それは、庭の方に唯一ある、でもとてつもなく大きいガラスの方からで。
風で窓が揺れたとか、偶然何か固いものがぶつかったとかそんな軽いものではなく。
二回目は少し強めの音で、誰かが意図的に音を立てているようだった。


「…蒼?」


もしかしたら用事を済まして帰ってきたのかもしれない、なんて考えて身体を起こしてカーテンを開けた。
蒼以外の人間がここに来ることなんて見たことがなかったから。
カーテンを開けようとして、その姿を目に映して首を傾げた。

(…知らない男の人。)


「…だれ」

ぽつりと呟くと、相手はそれに応えるようににこりと笑って窓の鍵を指さす。
開けろということなのだろうか。

迷うことなく、ぶんぶんと首を横に振る俺に、相手が不満げな表情をした。

(そんな顔されても、俺だって勝手に開けたら蒼がどうなるかわからなくて怖いから嫌だ)
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