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こんな場面を蒼に見つかったらまずいと、若干焦りながらカーテンを閉めようとする。

…と、
コンコンと再び手でガラスを軽くたたく音に顔を上げる。


「――…っ」


優しげに微笑んだ男が手に持っているものを見て、目を見開く。
いや、正しくは男が持っているケータイの画面に表示された文字に目を疑った。


「…な、んで」


驚いて思わず声が零れる。

ケータイで、その画面には『真冬へ 青木俊介』と書かれたメール。
男がそれを指さしてから、ガラスにある鍵を指さす。

…多分「中身を読みたいなら鍵を開けろ」ということなのだろう。

それを目で追ってからどうしようと頭を悩ませた。


「……」


ごくりと唾を飲みこむ。
…でも、一瞬鍵を開けようと伸ばした手が止まる。

正直に言ってそれが本当に俊介からのメールなら、喉から手が出るほど欲しい。読みたい。
蒼なら、もし俊介からメールや手紙が届いても、俺には絶対に見せてくれないだろう。

俺の見えないところへしまうか、捨てる気がする。

ちらりとガラス越しに男の人を盗み見る。
確かに自分と同年代か少し上くらいに見えるし、俊介と知り合ったってことも可能性としては否定できない。

…もしこの前蒼と会って、俊介が今動けない状態なら誰かに頼むことだってあり得る。

(…どう、しよう…)

拳をぐっと握る。
チャリと揺れた鎖が鳴った。

この人がここに来たということは、蒼の血縁か、屋敷に入ることを許された誰かなんだろう。
厳重に警備されているこの家は、そのくらい限られた人しか入ることを許されない。

もう一度、ケータイの画面に視線を戻す。

もしかしたら、…俊介からの助けを求めるメールだったりするかもしれない。
何があったのか蒼に何度聞いても教えてもらえないから、不安が募るばかりで。

自分のせいで何かあったのなら尚更、自分は俊介のためにできることをしないといけないと思った。


「…(開けようかな…、)」


手を伸ばして、それでも鍵に触れたところで迷ってしまう。

…本当に、この屋敷に入れる人間で、かつ俊介の知り合いがメールを持ってきた、なんて偶然があり得るのか。
嵌められようとしてるだけじゃないのか。

…疑り深い思考を振り払うようにぶんぶんと首を横に振った。

それでも、蒼がそばにいないのは今しかない。

つまり、このメールが本物だった場合、読めるチャンスは今だけだ。

それに、その優しそうな人が自分を騙すとは思えなくて。

鍵を開けようと冷たい感触に触れてゆっくりとおろす。
かちゃん、と音を鳴らしてロックが外れた。
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