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…どうして、こんなことになっているんだろう。
肩を抱きかかえられて、唇にスプーンをあてがわれる。
それから逃れるように顔をふいと背けた。
「あーん、ほら、口開けて」
「………」
「お腹すいてない?」
「……いらない…」
そういう問題じゃない。
キョトンと目を瞬いて、どうしたのかと不思議そうに俺を見つめる蒼に、小さくかすれた声でそう返す。
お腹がすいてないとか、そういう理由で口を開かないわけじゃない。
…空いてるか、空いてないかといえば、空いているけど…。
「…(でも、)」
ずっと一つの部屋に閉じ込められて、一歩も外に出られないこの状況で。
…こんな窮屈な状況で食べたいと思うわけがない。
はっきりと蒼から聞いたわけではないけど、蒼の言ってることからして俺がずっと眠たかったのも蒼の意図的なもののせいらしい。
思い至ることといえば、あの甘ったるい匂いのするお香くらいだけど…。
…あのお香に、何か眠くなる成分が含まれていたのだろうか。
どれほど考えても、蒼は教えてくれないから結局推測の域を出ることはない。
「…(でも、)」
足に視線を向ける。
少しずつ筋力が戻ってきたとはいえ、まだ自分では自力で立ち上がることもできない。
それでもと、どうにか立ち上がって何かしようとすれば、それを妨げるように蒼に布団の中に戻されてしまう。
少しでも逃げようとするそぶりを見せれば、蒼にすぐに扉を閉められてしまう。
…もう、俺にどうにかできそうな手段はなかった。
「……」
…どうして、こんなことになってるんだろう。
どうして、蒼は俺を閉じ込めようとするんだろう。
「……かえりたい…」
ぽつりと何度呟いたかわからない言葉をもう一度、口から吐き出す。
かえりたい。
学校に通うこともできてない。
それに、あの後板本君がどうなったか蒼に聞いても、「そんなやつどうでもいいだろ」なんて知らないふりをされてしまうので、結局俺は何も状況を把握できてなかった。
板本君、無事でいてくれればいいけど…。
でも、あの時の蒼の様子からして無事だとはどうにも考えづらくて、焦りで額に汗が滲む。
…蒼がいない隙に逃げようと思っても、こんな足じゃどこにもいけないし。
それに、ほとんど一日中ずっとっていうくらい蒼が傍にいるから、そんなことを試すことすらできない。
彼はそんな俺の言葉に対して、慣れたようにため息を吐き、コトンとお茶碗をお盆の上に戻した。
「これは、全部まーくんが望んだことなんだよ?」
その綺麗な眉が困ったように寄せられる。
子供のわがままを聞く親のような表情をする蒼に、ムッとしてカッと顔が熱くなった。
そんな顔をされると、まるで本当に俺がわがままを言って蒼を困らせている気分になってくる。
帰りたいっていう度、蒼はいつもそう返す。
俺が望んだだって…?
いつ、こんなこと、俺がしてほしいって言ったんだ。
そんなこと、一度だって言った覚えはない。
首をぶんぶんと横に振る。
「俺は…っ、こんなこと望んでない…ッ。帰りたい…っ、俺を帰してほしい…」
「……無理だよ。帰せない」
俺から視線をそらして、そう呟く蒼に、眉が寄る。
ぎゅっと拳を握った。
もう、これ以上蒼の思う通りに生きるのなんて嫌だ。
トイレだって。
お風呂だって。
食事を口に運ぶ行為でさえ。
全部蒼がする。
ここにいたら、本当に俺は自分で何もできないようにされてしまう。
俯いて、ぎゅっと指先が白くなるほど布団を握りしめた。
「…なんで、こんなことするんだよ。…俺は蒼の人形じゃないのに…っ」
「まーくん。いきなりどうしたの…?人形なんて、そんなこと思ったことないよ」
「嘘だ…っ、」
伸ばされる蒼の手を、跳ね除ける。
呼吸がうまくできない。
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