8
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ひっく、ひっくと嗚咽が漏れる。
頬を、温かいものが流れていく。
「まーくん、また泣いてるの?」
「…ぅ…っ、ひ…っ」
背後から、心配そうな声がかけられる。
これが、泣かないでいられるわけがない。
家が、なくなったのだ。
たった1つ、俺が安らげる場所だった場所が、なくなったのだ。
あの家も、俺のものではなかったけど、でも、必死に頼み込んでお金を払ってもらっていたものだった。
それが、消えてしまった。
なくなってしまった。
…あの家を買った者でなければ、売却することなんてできない。
つまり、蒼がどう話をもちかけたにしろ、”あの人”が売ることを許可したというわけで。
…家を売られるということは、親に俺が見捨てられたも同然だった。
想像していた通り、やはり俺はあの人にとってそれほど軽い存在だった。
「…っ、」
蒼に背を向け、壁に額をつけて、嗚咽を漏らす。
ぼたぼたと顎からこぼれたそれが、床に灰色の染みを作っていく。
足も使えない。
自分の家もない。
友達に、閉じ込められるだけの非力な自分。
…もう、こんな俺にできることなんてないじゃないか。
「…はは…っ、」
涙声の混じったかすれた笑い声が喉からもれる。
ばかみたいだ。
あると思ってたものが突然奪われたせいかな。
悲しさを通り越して笑いさえ浮かんできた。
…これから、俺に生きていく手段なんかない。
なくなってしまった。
「まーく、」
「…触るな…っ」
「…っ、」
振り向いて、睨みつけながら傍にあった枕を握りしめる。
酷い。酷い。酷い。
「……っ、蒼なんか大っ嫌いだ…っもう、顔も見たくない…っ」
「……」
渾身の力で投げつければ、それはボフッと顔にあたって床におちる。
そんな俺を見て、彼は悲痛の表情を浮かべて瞳を伏せた。
そんなのどうだっていい。
蒼の顔なんかもう見たくない。
どこにでも行ってしまえとさえ思う。
「…ぅ…っ、」
唇をかみしめたって、目からあふれる涙はとまらなくて。
ぼろぼろと頬を伝う。
そんな俺を見て、また蒼が辛そうに顔を顰めた。
憎いのに、許せないと思ってるのに、蒼のそんな顔を見るとやっぱりこっちまで苦しくなってくるから。
その感情から目を背けたくて、背を向ける。
…俺はもう、どこにも行けない。
本当に、どこにも居場所がなくなってしまった。
「…ごめん」
ぽつりと背後で呟かれる声に、また涙があふれてくる。
ぶわあとあふれた涙が、とめどなく頬を伝う。
謝るくらいなら、しないでほしい。
それに答えないでいると、しばらくの無言の後「……何かあったら、呼んで」という言葉とともに、ガラガラと障子の締まる音がした。
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