12
足が動けないのだって、嫌だ。
家がなくなったのだって許せない。
俺の身の回りのことを全部やって、俺を閉じ込めようとすることだって嫌だ。
だから、…俺は、そんなに嫌だと思うなら、本当は無我夢中で、どんな方法を使っても逃げるべきなんだろう。
携帯に伸ばした腕から力を抜いて、床におろす。
へらりと緩く笑って、蒼を見上げた。
「ばかだなぁ…蒼は」
こんな何の取り柄もない俺なんかに、固執して。
閉じ込めて。
心からばかだなぁと思う。
…俺は、きっと蒼を許せない。
友達だから、大切に思うからこそ、蒼のしたことを許せない。
でも。
「…蒼」
俺が彼といることで。
少しでも彼に、その泣きそうな、辛そうな表情をさせないでいることができるなら。
蒼の服の裾を掴んで上半身だけ起こす。
居場所のない子供みたいな顔をする彼に、手を伸ばした。
「…傍にいるから、そんな顔しないで」
きゅっとその震える身体に腕を回して、抱きしめる。
あったかい。
もう、どうなってもいい。
何もかもが、どうでもいいような気がした。
「まーくん…っ」
そんな悲痛な声を上げて、ぎゅううと苦しいほど強く抱きしめられる。
彼のその体温と、甘い香りに身体が包まれる。
「いい。まーくんがあいつに会いたいって言っても、誰と話したいって言ってもいい。俺のこと、嫌いになってもいい」
震える声。
いいなんて思ってないくせに。
それでも俺を引き留めようとそんなことを言う。
蒼にはきっと俺じゃなくても、彼の傍にいたい人がたくさんいるはずなのに。
…それなのに、彼が今抱きしめているのは俺なんだ。
「それでもいいから、だから…お願いだから……」
「……」
「ずっと俺の傍に、いて」
甘えるように俺の肩に顔を埋めて、彼は掠れた小さな声でもう一度縋るように俺の名を呼んだ。
なんでだろう。
どうしてだろう。
彼にとってこんなことまでして一緒にいたい人間が、どうして俺なんかなんだろう。
「……」
うん、なんて簡単に頷くわけにはいかない。
でも、横に振ることもできずに、俺は慰めるように蒼の髪を優しく撫でた。
…こんな俺の一挙一動で泣きそうになったり、苦しそうな顔をしたりする。
そんな風に俺を求めてくれる彼を、拒絶して逃げることなんてできそうもなかった。
――――――――
嗚呼、ばかなのは俺の方だ。
この選択を、いつか後悔する日が来るんだろう。
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