蒼と真冬 1



――それから、俺と蒼の、二人だけの世界になった。


俺と蒼しかいない。

二人だけの、ふたりのためだけのせかいになった。



今までの、”友達”とは少し違う関係になった。


…そうはいっても、最初は蒼に抱かれたりなんかしなかった。


初めのうちは何をされるのかと蒼が怖くて、震えが止まらなくて。
それでも、俺が逃げようとする素振りさえ見せなければすごく優しくしてくれたし、怖いことなんて何もなかった。

ただ蒼と一緒にいて、話をするだけ。

学校には行かせてもらえないけど、それ以外は今までと一緒だった。


蒼が俺を閉じ込めようとするのだって、一緒にいるって約束したのに蒼を避けたり、俺がストーカーに襲われたり、不良にあんなことされたりして、とても心配をかけさせてしまったからで。

俺は自分の気持ちしか考えてなくていっぱい蒼の言葉を無視したのに、それでも蒼はたくさん助けてくれた。

だから…蒼にはすごく迷惑をかけてしまった。


俺だってもし俺が蒼の立場だったら、忠告も聞かないで自分勝手なことばっかりする俺のことなんか愛想をつかしてしまったかもしれない。


…そうされないだけ、俺は幸せ者なんだろうと思った。


そんな蒼に、「お願いだから俺にこれ以上心配させないで」と泣きそうな顔で言われれば、もう外に出たいなんて言えるはずもなかった。


でも、それでもかまわないと思った。

彼は優しくて、俺のことを大切にしてくれて、寂しいときはずっとそばにいてくれる。

普通だったら、逃げようとするのかもしれない。耐えられないかもしれない。

けどあんなにたくさん迷惑をかけて、それでも俺を捨てようとしなかった蒼の気持ちを拒絶してまで会いたいと思う人なんかいなかった。


逃げないって約束をすれば、足も元通りに近いほど動けるようになった。


…俺がこうやって閉じ込められて、誰にももう会えないとしても。


蒼が幸せになるならそれでいいやとさえ思った。


でも。

時々帰ってきた時の蒼の様子がおかしくて、どこか雰囲気が普通じゃないことがあった。

そのたびに大丈夫かと心配になって、傍に寄ろうとすると「近づくな」と冷たい口調で身体を押し退けられた。
辛そうな表情で大量の汗をかいて、苦しそうに呼吸を乱しながら部屋の隅っこで蹲る蒼は、その後もこっちに来るなと言ってるような雰囲気を醸しだしていて。

そうやって俺は何もできないまま、日数だけが経った。


蒼には、俺の知らない何かがあるんだろうと思った。


こんなにずっと一緒にいたのに、俺は蒼のことを何も知らない。

蒼が何かに苦しめられているのを見ていることしかできない。


俺だってどうにかしたいと思ってるのに、「まーくんには関係ない」の一点張りで教えてくれなくて、俺は無力感をただ実感するだけの日々だった。
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