4



後ろから思いきり耳を噛まれて「ぃ――ッ」と痛みに声にならない悲鳴が上がる。

じわじわと痛む耳に、絶対これ血が出た、なんて泣きそうになりながらせめてもの抵抗で足をばたつかせる。
「これじゃ苦痛に歪む顔が見れないなぁ」なんて声が聞こえて、背中の重みが消えたと思った瞬間、脇腹を蹴られて上を向かされた。

さっきからサンドバックみたいにばかばか蹴られて、流石に悪態をつきたくなる。



「蹴り過ぎ…、…っ」

「いやぁ、こんなんまだ序の口でしょ」

「何言って…っ、――げほ…っ、はぁ…ッ」



咳き込んだ。
脇腹がずきずきと痛む。
もう蹴られることよりも、これをもし蒼に見られたらと思うと、考えるだけでも恐ろしい。

乱れた呼吸を整えていると、間髪入れず伸びてきた手に首を掴まれてぎゅううと強く絞められた。

その目が獲物を捕らえた獣のようにぎらぎらしていて、ぞっとする。
口角を上げて笑うその顔に恐怖を覚えた。
首を掴む指に力が入る。

苦しい。息ができない。



「や、め…っ」


視界がぼやける。
口の端から唾液が零れた。

ぺろりとそれを舐めとられて、そういうことをされること自体が気持ち悪くて、背筋に寒気が走る。



「どう?苦しい?どんな感じ?気持ちいい?」

「…は…ッ」


答えさせるためか、すこし緩んだ手によって、辛うじて酸素が口から入ってくる。

気持ちいいわけない。
苦しいに決まってる。


(やばい…、目の前が、見えなく、)


…ガンガンと殴られ続けているような感覚が全身に痛みを与えた。
明らかに脳への酸素がたりない。
それとは少し異なる…何か別の感じが不意に脳裏をよぎって、でも今こんな状況でそんなことを考える余裕があるはずもなく、思考はすぐに目の前のほうへと向く。

薄れゆく意識のなか、興奮したような表情であふれ出る涙をぺろりと舐める男に、もう嫌だと、もう死んだ方が楽なんじゃないかとふと思った。


ずっとこれからも、自分が何もできないんだと思い続けるくらいなら――。


はあと息を息を吐いた男が、チッと小さく舌打ちをした。


「簡単にあきらめないでほしいな。もっと、抵抗しなよ」

「…っ、は…っ、」


意識を失う寸前、その言葉とともに手を離されて一気に入ってきた酸素を思い切り吸い込んで噎せる。

噎せるといってもまだ鎖を掴まれてる状態だから、自由に体を動かせない。

十分な空気を取り込むのに時間がかかって、惨めな格好になった。

顔の横に手をついた男が、ふ、と緩い笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。



「やっぱり肌も綺麗だね。ますます好み」


服の下に手を入れられて、撫でられる。
小さく身体が震えた。


「…っ、触るな」


すす、と這わされる手が段々下りていくのを感じて、手を振り払う。
ぱんと乾いた音がして、その振り払われた手を見て男が驚いたように目を瞬かせた。



「怖い?大丈夫大丈夫。痛くしないから」


にこりと胡散臭い笑顔を浮かべながら、そんな信用できない言葉をさらりと吐く。

ジッパーをおろす音に青ざめて、必死に声を上げた。
こんな知らない男に犯されるなんて、死んでも嫌だ。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

ぐ、と唇をかむ。

こんな時でも、俺が救いを求められるのは、ただ一人しかいない。
されてる行為自体は変わらないかもしれない。

(…でも、)

でも、それでも。

…蒼は、俺が本当に死にたいと思うほど嫌がることはしない。

ぎゅっと目をつぶって扉に向かって手を伸ばした。


「あおい、蒼…っ」

「んー、なんか寝取ってるみたいで興奮するけど。でもそんなに、あいつの名前呼ばれると腹立ってくるんだよね」


声がワントーン低くなった瞬間、こめかみを掴まれて後頭部を床にぶつけられる。


「―――っ」


目を閉じて苦痛に呻いたと同時に、ズボンを膝から一気に脱がされた。
膝裏を掴んで大きく左右に開かされた。
prev next


[back]栞を挟む