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思い通りになったというように薄く満足げに微笑む蒼に、目を閉じて怒りをぶつけるように唇を押し付けてやる。
お互いに冷たい唇が重なって、一瞬息が止まった。


「……」

「…っ、は…ッ、」


にゅるりとしたものが口の中に侵入してきて、身体を後ろに引こうとした瞬間、後頭部を手で押さえられる。
嫌というほど彼の舌に翻弄されて、抵抗することができない自分に嫌気がさす。

歯茎をなぞられて、舌をキツく吸われる。
腰が震え、自由にできない呼吸に次第に思考が奪われていく。……抵抗したらしたで面倒くさいことになると分かり切っている。拒む気さえ失せて、すぐにされるままになっていた。


「ん…っ、は…っ、ぅ…ん、や…ッ、…」


通学途中の道で、いったい自分は何をしているんだろうとぼんやり考える。

……結局、蒼が飽きて口を離すころには、もう息も絶え絶えになっていた。
ただでさえ低い気温に、熱くなった口内が吐き出す吐息は量を増して白くなった。
崩れそうになる腰を腕で支えられる。


「ごほうび」


そんなわけのわからない言葉とともに首に巻かれるそれ。
蒼が優しくふわりと微笑んだ。


「ごめん、嘘だよ。俺が、可愛いまーくんを他の男に触らせるわけないだろ」


抱きしめられて、軽く口づけられる。
その愛おしげな表情に、…瞼を伏せ、何も言わずにこくんと頷いた。

ほっとして身体が崩れ落ちそうになるのをこらえる。
顔を上げて、首に巻かれたものを触った。

……それはさっき蒼に巻いたマフラーで。


「……」


もともとは自分の首に巻いていたものが返ってきただけなのに、何故か嬉しくなった。
そんな自分が悲しくて可笑しくて、なんというか、ものすごく中途半端な表情を浮かべて先を歩く蒼を見つめる。
手の中にあるそのやわらかい感触を、ぎゅっと握りしめた。


(…結局、これも蒼が買ってくれたもので、)

自分のものではない。
そう思うと、無性に投げ捨てたい衝動に駆られる。


「…そんなこと、できるわけないんだけど」


そう自嘲気味に小さく呟いて、少し前を歩いて俺の手を引く…自分より少し大きい手を握り返した。

―――――――――

籠の中の鳥は、飼い主に従わなければ生きていけないから。
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