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「蒼様だ!!」

「あ…っ、本当…。相変わらず神……綺麗…」

「蒼様に一度でいいから抱かれたい…」


校門をくぐると聞こえてくる声。
久しぶりに聞く蒼以外の声に、びくりと肩が反射的に震えた。

誰だアイツ、というような疑り深い視線が突き刺さってくる。
気まずくて居心地が悪くて、せめて自分がその人たちを視界に入れないように目を伏せた。

そりゃあ、そうだろうな。
高校二年の、しかも冬っていうこの季節に初めて見る人間がいたら嫌でも視線を向けたくなるはずだ。

でも、それは俺が知らない人間だからっていう理由だけじゃない。ここまで注目されている原因は別のことにあると周囲の反応を聞いてすぐにわかった。

見なくても感じてしまうくらいの視線の多さに、無意識に体が震える。
俯いて、ぎゅっと首に巻いたマフラーを握りしめた。


「怖かったら、俺の服の裾でも掴めば?」

「…結構です」


揶揄うように口の端を上げて笑う蒼から、ふいと顔を背けた。

やはり予想通り、蒼の隣にいると嫌でも感じる粘っこい視線。毎日のことらしく、それが当たり前みたいな顔をする蒼を横目で見て、ため息をつきそうになる。

長身で、同じ人間とは思えないぐらい整った顔をしている男の隣に、こんなやつがいてすみませんなんて申し訳なくなりながら、重い足を進ませた。

いつもながら冷酷と感じられるほど蒼の纏う雰囲気は冷たくて、…愛想を振りまくという行為を知らないような冷たい目や表情は、マイナスというよりは寧ろ神々しいほど完璧な外見を際立たせている。

この焼かれそうなほど熱い視線の中で、俺が蒼の服なんかつかんだら、それこそ憎悪の対象としてインプットされてしまう。初めて学校に来た日に、そんな印象を抱かれるのは嫌だ。

聞いたところによれば、蒼の通う学校は、少し”特殊”と呼ばれている高校だった。
本来であれば、御曹司で、かつ成績優秀の蒼がこんなところにいるはずがないのだが、「ちょっと変わった高校に入ってみたい」という何気ない蒼の一言から、執事さんが四日間徹夜で見つけ出したこの高校に入学が決定されたらしい。

(…お坊ちゃんのすることはよくわからない)

そんなどうでもいいようなことを考えていると、一人の男子生徒が近づいてきた。

蒼の腕に抱き付き、くりくりとした可愛い目で訴えかけるように見つめて体を寄せる。
オレンジ色のマフラーにふわふわの手袋をしていて。目が合うと、にこっと微笑まれた。

とりあえずお辞儀をする。


「ねぇ、蒼様。今日は僕と過ごしてくれるんだよね?」

「……あー、忘れてた」


腕を絡めたまま体を密着させる彼は、期待を滲ませた色っぽい眼差しを向けている。

蠱惑された表情で蒼に触れる様子は、日常的なもののように見えた。
ただならぬ関係だと感じさせるその雰囲気から、察してなんとなく顔を背ける。

学校での蒼を見たことがなかったけど、いろいろ遊んでるんだろうなと改めて思った。
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