どうして、(真冬ver)
***
どうして。
どうして。
どうして。
「あらら、ごしゅじんさま本当に帰っちゃった」
「……ふ…っ、ぅ…っぁ…ッ、ひ…ぐ…っ」
「うんうん。かわいそうにねー。蒼君に捨てられて、今の新しい御主人様にも置いていかれちゃったね」
「……ぁ…っ」
腰のあたりに触れた指が、下に降りていく。
敏感な部分に到達したその動きに声が漏れる。
不満げな言葉が聞こえた。
「うーん。ちゃんとした生活してないからかな。前より痩せちゃってるな。もうちょっと俺としては肉付きが良いと嬉しいかなー。」
「ふ…っ、ぁふ…っん…っ」
ぬるりとした舌が俺の口内を荒らして、口端から零れた唾液が、首筋を伝ってから肌の上を流れて降りていく。
体内の水分なんてほとんどないのに、涙のせいで余計に身体から消えていく。
勿体ない。
そう分かってるのに、溢れる涙は止まらなくて。
心の中がまるで空洞になったみたいだ。
ぽっかり空いた穴のように風が吹くだけで寂しくて、その中には誰もいない。
ひとり、
「御主人様に毎日飲み物貰ってるんでしょ?俺にもやってよ」
「…っぁ…、はい…わかり、ました…」
ジーッとズボンを下ろすような音がして、「はい、口開けてー」と言う声に従って、素直に口を開く。
前の時のように、…あの時のように、逃げようだなんて思わない。
そんな体力も、気力もなかった。
ご主人様が言葉通りに出ていったってことは、扉が閉まる音が嫌でも伝えてきた。
あの時は、なんだかんだ蒼が絶対に助けに来てくれるって信じてた。
俺が悲しい時、辛いときはいつも蒼が傍にいてくれたから。
……絶対、助けに来てくれるって思ってた。
でも、蒼は今傍にいなくて。
俺は、蒼に捨てられて。
ずっと友達だと思ってたけど、蒼にとって俺はただ道具に過ぎなくて。
頭がおかしくなりそうなほど聞かされた沢山の人の声。
蒼に遊ばれて、捨てられていった人たち。
でも、…全員が恨んでるわけじゃなくて、ほとんどが蒼を好きで好きで好きで…蒼が自分から離れることに対して泣いている声ばかりだった。
乱暴な男の人たちの声に混じって聞こえるその叫び声は、確実に蒼のことを好きだと…そう訴えていた。
玩具みたいに数えきれないほどの人数に犯されながら、それでも蒼を求める声。
卑猥な粘稠音、腰を打ち付ける音と、興奮する男たちの声。
……それに対して、何の感情も示さずに冷たい声音で吐き捨てる蒼の声。
口を開けば、少し液を垂らした肉棒が唇を割って入ってくる。
最初に舌で舐め、ゆるゆると唇で先を挟んでなぞる。
自分から口をもっと大きく開いて迎え入れ、喉の奥にちょんと先端が当たると、一瞬嘔吐感で押し出しかけた。
「…ぁ…っ、御主人様ってよんでよ。俺も真冬くんにそう呼ばれてみたい…あーじゃあ、俺も家畜って呼んじゃおうかな」
「…ん゛…んふ…っ…」
「ぁは…っ、イイ…っ、表情もイイし、何より断然前よりうまくな、った…っ…はぁ…っ」
「…ぶ…っ、んン゛…っ」
条件反射のように身体は動く。
唇の先をすぼめて、その中身を吸い取るように舌を使いながら刺激を与えていく。
片手は陰嚢を掴んで揺さぶる。
それだけで、ビクンと肉棒は反応して液を垂らしてきた。
一気に荒くなった男の息遣い。
気持ちいいんだろう。
顎が痛くなるくらいに、口一杯に頬張り、受け入れ、扱く。
口の中にダラダラと流れてくる精液によって口内で激しく肉棒を上下に擦れば、じゅぼじゅぼと唾液と精液が混ざり合って音が鳴る。
快感で相手の腰が揺れ、髪を掴まれながら道具みたいに動かされる。
その反応をどこか他人事のように感じながら、頭は別のことでいっぱいだった。
「…(どうして…)」
どうして。
俺、いい子でいたのに。
ご主人様の言う通りに、毎日毎日御主人様の言うことにちゃんと従って奉仕して笑って御主人様に好かれようと頑張ったのに。
どうして…なんで、こんな…
やっぱり、また…努力が足りなかったのかな。
俺が、もっと必死に頑張ってれば…今頃はこんなことになってなかったのかな。
もう随分と長い間、毎日殴られて、蹴られて…玩具で肚を掻き回されて、何十時間も震えて、乳首から血が出るまで痛い玩具に耐えて。
そうやって一方的な御主人様の課題を頑張ってきて、大体の事には慣れて、怖いと思う感情なんかなくなったはずなのに。
…どうして、今こんなに身体が震えてるんだろう。
ぼんやり考えて、ふと気づいた。
「…(ああ、そうだ)」
俺、蒼以外とセックスするの…これが初めてなんだ。
そう思いついた瞬間、口の中の物がビクンと震えた。
放たれたその欲をごくごくと飲み込む。
「ん…っ、く…っ」
「はぁ…っ、あー…赤ちゃんみたいにちゅうちゅう吸っておねだりする真冬くんやらしー」
口の中から、質量のある肉棒が引き抜かれていく。
…やっぱりあんまり美味しくない。
でも、渇いた喉は精液でも充分潤すことができる。
水なんてしばらく飲んでないから、もうその味がどんなものだったかなんて忘れてしまった。
……やっぱり、飲むならご主人様の精液のほうがいいな…。
それに、なんか血の味がするし…まずい…。
「俺も蒼君のおかげで沢山男達に弄ばれちゃったからね。何十人相手にしたかわからないほどセックスして顔の骨が砕けるほど殴られたから、君が今俺の顔見たら驚くよ絶対」
ふふ、と笑う声を聞き流しながら、汚れた性器をぺろぺろと舌で舐めて綺麗にする。
これも、御主人様にするいつもの日課だった。
尿道の穴をツンと舌先が触れた途端、大きく男が反応する。
「…っはぁ…っ、やば…っ。ちんこも切断されかけて切り傷入ってるし、痛いけどそれがまたいいんだよねぇ」
「……」
「ほんと、椿さんがいなかったら俺のちんこを今頃こうしてフェラが上達した家畜くんに咥えてもらえる機会なんてなかったんだろうからラッキー」
その言葉に、不意に思い出す。
そういえば…蒼の精液も何回か飲んだことがあったっけ…。
この人に精液を飲まされたってことも、この人が俺の精液を飲んだことも…怒ってた…ような気がする。
今思うと…俺のことが好きだったから怒ったんじゃなくて…自分の所有物に手を付けられたから怒ったってだけだったのかもしれない。
……一時期、本気で蒼が自分のことを好きでいてくれたのかな、なんて浮かれたことを考えていた自分が馬鹿みたいだ。
思い出してみればやっぱり後悔だらけで、できれば何も考えたくない。
蒼にだって、もし俺が…、ああやって抵抗しないでもっとちゃんと蒼の言う通りにしていれば…捨てられたりしなかったのかな…とか。
もう少しだけでも、一緒にいられたのかな…とか。
俺が友達に戻りたい、だなんて思ったからいけないのかな…とか。
……そもそも、俺と蒼は友達でもなかったんだっけ…?…とか。
なんて終着点のない後悔や疑問ばっかり浮かんできて。
でも結局今…蒼は新しい女の人と付き合ってて…セックスする関係にもあって…俺なんかが今更蒼に会いに行ったって喜ぶどころか嫌悪されるんだろう。
冷たい目で見られるに決まってる。
そんなの嫌だ。
だから…いつか、蒼と会えるなんて馬鹿な期待を持つのはやめた。
もうよくわからなかった。
自分の気持ちも、蒼のことも。
……それでも、そうやって蒼のことを思い出すたびに思わず泣き叫んでしまいたくなりそうなほど胸の奥の深い部分が締め付けられて苦しい。痛い。
(………っ)
目をぎゅっと閉じてそんな感情を押し込む。
もうそんなことどうでもいいんだ。考えたくない。もう何も知りたくない。
蒼のことを考えたって仕方がない。
蒼は、俺を求めてなんかいないんだから。
傍にいてほしいなんて、好きだなんて…蒼は俺に二度と言ってくれないんだろうから。
あんなに会いたいと思ってたのに、今は蒼に会いたくない。
俺は…御主人様だけが傍にいてくれれば…それでいいんだ。
……怖くなんかない。俺は、もう誰にも捨てられたくない。
今この場所がなくなってしまったら、本当に俺の居場所がどこにもなくなる。
そんなの…絶対に嫌だ。
「一発射精して余裕も出たし…じゃあやろっか」
「…っ」
ちゃんと、やり遂げて見せる。
そう思ってるのに、その言葉を聞いてビクッと身体が恐怖に震えた。
「君、蒼くん以外としたことないんでしょ?そりゃあ怖いよねー。でもやることはちゃんとやってもらわないと」
「…やる…こと…?」
「孔、指で拡げて、俺に挿れてくださいっておねだりしてよ」
「おねだり…」
相手の言葉を繰り返すように呟く俺に、声はクスクスと笑う。
俺が言うことを聞くと分かってるからか、脅すような声ではなく、何か遊びを楽しんでいるような。
そんな軽い口調だった。
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