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…―――――まーくんと出会う前。
……それ以前の覚えている記憶といえば、いつも手足を鎖に繋がれていたことと、自分を父親だとほざく人間の見下した顔、黒いスーツを着た仮面のような表情の人形もどき、家で行われるうざったい慣習、血を吐くほどの勉強…それぐらいで
どれもこれも全部が全部ゴミみたいなもので、反吐がでるほど醜くて嫌で嫌でたまらなかった。
……どうして自分はまだ生きているのかと不思議に思うほど、意味のない毎日。
全部が全部、これが本当に現実なのかと思えるほどモノクロだった。
「蒼様」
「…あの人は?」
「お部屋でお待ちになっております。すぐにお召し変えを終えたら戻るようにとのご命令です」
「……」
濡れた髪と身体を拭かれて、すぐに新しい着物を着せられる。
慣れたようにオレに服を着せる”それら”を瞳に映しもせずに小さく頷いた。
ガチャリと首輪を嵌められて鍵をかけられる。
いつも屋敷内を歩くときは鎖を引きずって歩いていた。
俺が逃げないように。
俺が逃げられないように。
苦しくても、嫌になっても、逃げださないように。
学校以外ではずっと拘束されていた。
勉強。
作法。
人に取り入るための訓練。
人を虐げるための方法。
…そうやって”俺”という人間を変えるために、ひたすら毎日行う行事。
家の外でどれだけ優秀で、人望を持つことができるかが評価基準だった。
初めは嫌悪感や罪悪感を感じていたけど、もう何も感じなくなった。
…人ってこんなに簡単に変われるんだと自分でも驚くほどに何かが変わった気がする。
(…ま、別にもうどうでもいいんだけど)
全部がどうでもいい。
どうせ何をしたって変わらない。
頑張ったって、抵抗したって、何も変化なんか起きない。
気怠く瞳を伏せる。
「ため息を吐くな。暗い顔を見せるな。呆けたアホ面を晒すな。みっともない。」
「…申し訳ありません。二度としません」
「次同じ表情をしたら前みたいに痣では済まさないからな。覚えておけ」
「はい」
屋敷内ではいつもつけられている首輪。
そこから提げられた鎖を引いている、やけに豪華な着物を着た男を見上げた。
小学生の自分を見おろしたその顔が愉悦に歪む。
素直に頷いた俺に余程満足したんだろう。
俺よりも何十センチも高い男の顔は、見上げなければ見えない。
全てがどうでもいい。
(…こんな風に思うようになったのは、…いつからだっただろう…)
…もう、思い出せない。
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