15

両手を伸ばして首に回して抱きしめてくる。
すぐ耳元で囁く声。


「くーくんと会えたから、…すごくうれしかった」

「……」

「…だからくーくんは、かみさまからおれへのぷれぜんと…みたいな、そんな気がして、すごく…うれしかったんだ…」


少し鼻をすするような音。
でもその声は本当に嬉しそうで、
「…俺も、真冬に会えて良かった」と小さく呟けば、「えへへ、ありがと」と満足そうに顔をほころばせる。


「あのね、ほんとにほんとに、たんじょうびのひにあんな風にして会えるなんてびっくりして、奇跡がおこったんだって思ったんだよ」

「…うん」


頷く。

…俺だって奇跡だと思った。
いや、どう見ても俺の方が奇跡というに相応しくて、
誰かが自分を助けてくれるなんて考えられなくて、そんなこと思いもしなかった。

……だから、ああやって真冬と出会って、そして拾われたのは…奇跡の他に言いようがない。

…どっちかというと真冬は面倒ごとを拾っただけだ。


あの日のことをそんな風に思えるのは、多分世界で真冬ぐらいのものだろうと思う。

…俺が逆の立場だとしても、そう捉えられるだろうか。

(…それに、)

真冬がそうやって言えるのは何も知らないからだ。
…もし俺があの人たちに見つかって真冬が酷い目に遭うことがあったとしたら…そんな風に言ってくれると思えない。

「もしおこらせるようなこといってたらごめんなさい」と謝る真冬に首を振って笑う。


「俺も、真冬がいてくれて救われた…その…ありがと…」

「…っ、えへ…へ、こちらこそありがとう…っ!」


ぱあっと表情を明るくして、喜びでいっぱいの顔で嬉しそうに見てるこっちが思わずつられて微笑んでしまいそうな、そんな笑顔で、ぎゅうっと首が締まりそうなほど抱きしめられて苦しい。

「あ、」と声を上げた真冬が離れる。


「くーくんのおたんじょーびは?おいわいしたい!」

「…知らない」


誕生日なんてそもそもあの人たちが覚えてるのかさえわからない。
俺自身も自分が生まれた日に興味なかったし、聞くっていう発想もなくて。

確か父親の誕生日には盛大なパーティーらしいものがあったけど、自分と彼方にはそんなの無かった。


「…んー、そっか…」

「…うん。ごめん」


なんか気まずい雰囲気にさせてしまった。
しょぼんと下を向く真冬に「そんなに気にすることもないと思うけど」と言えば、何かを考え込んでいたらしく「むー」だの「うー」だの唸っていた真冬がぱっと顔を上げる。

ぎゅっと手を掴まれた。
ぶんぶん縦に振られて身体が揺さぶられた。


「…じゃあ、じゃあさ!」

「何?」


いいこと思いついた。
みたいな、若干興奮したようなそんな顔で無邪気に笑った真冬に首を傾げる

と、


「おれといっしょのおたんじょーびにしない?」

「…へ?」


突然の言葉に目を瞬く俺に、にぱあっと嬉しそうな笑顔。

「ね、しよ?」と窺うように上目遣いで見上げてくる真冬にバクバクと心臓がおかしくなりそうになって頬が熱くなる。


「…誕生日を真冬と一緒にって、どういう…」

「えっとね、くーくんのおたんじょーびをおれといっしょってことにするの。えっと、にがつにじゅーはちにち!」

「…2月、28日」


ぽつりと繰り返して確かめるように呟く俺に、段々心配になってきたのか不安そうな表情をする。

「あ、もしいやだったら、ごめんなさ…」と俯こうとする真冬に慌てて「一緒がいい。…真冬と、一緒の誕生日がいい。」と自然と溢れる喜びに頬を緩めれば、「よかった」と安堵する顔。

(…真冬と一緒の誕生日)

そう思うだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。


「もうすぎちゃったけど、いっしょにおいわいしない?」

「うん。する」


誕生日のお祝いなんてしたことない。
こんなふうに言ってくれる真冬に驚いて、…でも凄く嬉しい。

俺も真冬に喜んでほしい。

もっと嬉しそうな顔が見たい。

…こんな欲求も今までなかった。


「俺も、真冬の誕生日を祝いたい」


誕生日のやり方も知らない。
どうすれば真冬が喜んでくれるかもわからない。
…だから、これから少しずつ色んなことを知って、真冬をもっと喜ばせたい。


「…っ、うん…っ、ありがと…くーくん」

「…なんで泣きそうになってんの」

「…っ、な、なってないもん…」


真冬は俺の誕生日を祝いたいと言ってくれたけど、

俺は真冬と一緒にいられればそれだけで充分幸せだった。

…その日、一緒に四葉のクローバを取りに行って、部屋に花を飾りつけた。
一緒にお布団でぐるぐるごっこして、一緒ににらめっこして、沢山遊んだ。

そして、「何か欲しいものある?」と聞いた俺に「…く…、くーくんにちゅーして、ぎゅってほしい」なんて真冬が真っ赤な顔で照れながらそんな可愛いことを言うから

最初は優しく唇を重ねて、…で、結局我慢できなくなってちょっとやりすぎちゃったけど、「あ、あう…」とまた頬を真っ赤にして涙目になりながらぶるぶる身体を震わせる真冬が愛しくて笑うと、そんな俺に真冬がちょっと怒って抱き付いてきて、


…そうして「「お誕生日、おめでとう」」とお互いに言って笑った。

幸せだった。

凄く幸せだった。

…人生で、最高の誕生日だった。

――――――――

…全部…全部、真冬が初めてだった。
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