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✤✤✤


最近、かなり高確率でまーくんから女子の話題を出されることが増えた。


「…どう?蒼くん、ああいう感じの女の子ってタイプ?」


何気なく零される言葉に、ぴく、と身体が反応して固まる。
周りの恋愛ムードに当てられたせいかもしれない。

…本当、面倒な刺激をまーくんに与えないでほしい。

視線の先を追うと…この頃何度も何度もまーくんを呼び出すようになった女。

まーくんに気があるのか、放課毎に呼び出されて一緒にいるところを見かけるし、あの女と関わるようになってから恋愛系の話題が増えたせいで、タイプ云々の前に不機嫌になる原因でしかない。


…まーくんのことだから、変なことに巻き込まれてないといいけど。


「……」


どう答えようか迷って、興味津々に見つめてくるまーくんに根負けして渋々と唇を動かした。


「俺の好きなタイプはまーくんだから」

「…へ?」


返答して、真剣な表情でじっと俺の席の隣で立つまーくんを見上げる。

キョトンと目を瞬いて、嗚呼そんな驚いた顔も可愛いななんて思っていると、「そ、そういう冗談は女の子に言ってあげた方が良いって前から言ってるのに…」という相変わらず的外れな回答しか返ってこない。冗談じゃないのに。そう返されるのはわかってたけど、なんかムカつく。

無意識に瞳が冷たくなっていたのか、ビクッと少し怯えるような表情をしたまーくんに息を吐いて感情を鎮める。


「…まーくんは?」

「なに?」

「どういう人が好き?」


これ以上女の話題ばっかり出されるのが耐えられなかったってことと、興味本位で聞いてみる。
俺だってまーくんの好きなタイプになりたい。
もし具体的な好みがあるなら、それに近づけるように努力だってしてみせる。

軽く首を傾げれば、まーくんも考えるような仕草でむむむと考え込んでいた。


「…?どういう、うーん。おれ、恋とかしたことないからまだよくわかんない、かも」

「…うん。まーくんはそのままがいい」



とりあえず安堵する。
あの廊下にいる女を好きとか言い出したらと思うと怖かった。

誰かに恋心を抱くようになるくらいなら、ずっとそうやってわからないままでいてほしい。



頬杖をついて、怠く瞼を伏せて呟く。


「それより、あの女にこれ以上近づかない方がいいよ」

「なんで?」

「…悪い噂しか聞かないから」


正直言えば噂なんて調べてもなかった。
そもそもあの女の名前すら知らない。

…でも、俺がこう言うことで、まーくんが近づくのをやめてくれればいい。
そうすればもうこんな風に苛々しなくて良くなる。
少なくとも”あの人”と似たことをしなくて済む。

…そう思った、のに。

いつもなら、そこで会話は終わるはずだった。

だから今日もそうだろうって、

でも、珍しくまーくんが食い下がってくる。


「蒼くんも話してみればわかると思う」

「…まーくん…?」


予想外の言葉。
顔を上げた瞬間に視界に映るまーくんの表情に、ざわっと心の中が騒がしくなった。


「金本さんはいい人だし、可愛いところもあるし、…最近色々話したけど結構いい子だなって思ったよ」

「……」


(…何、それ)


なんであの女を見て、そんな顔…

頭から冷水をかけられたように全身から血の気が引く。

絶句して言葉を発せないうちに、……まーくんは、あの子はこういうところが可愛いと具体例まで出し始めた。蒼くんも今度一緒に話そうよ、なんて聞いてもいないことをつらつらと残酷にも並べ立てていく。


「もういい。聞きたくない」

「…蒼、君…?」


思ったより叫ぶような強い音になって出る。
それ以上何か言えば、まーくんをズタズタに傷つけそうだった。

激しい感情の波が襲って来て、壊れそうな心臓を必死でおさえるために机に腕を置いてそこに顔を突っ伏す。


「…ごめん、蒼くん…あんまりこういう話するの好きじゃないんだった。」


突っ伏した俺の髪を撫でるまーくんの手があまりにも優しくて、あたたかくて…苦しい。
気遣うように触れる手を掴んで、顔を上げる。


「…俺の前で、二度と女の話しないで」

「……うん、わかった」


俺はどういう表情をしていたんだろう。
まーくんは俺を見て、申し訳なさそうに眉を下げる。

そうやって頷いてくれたおかげで、やっと少し落ち着いた。
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