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まーくんと一緒に学生生活を送ること以外何もできない俺にとって、まーくんと深い関係になりえる人間は全員敵だった。
触る人間。
笑いかける人間。
傍に寄ってくる人間。
話しかける人間。
…誰かがまーくんを見ただけでも、異常に胸が苦しくなる。
それに加えてまーくんが俺と同じような態度で他人に接すると、俺はその他の人間と何も変わらない存在なんだって思うから、余計に不安になる。
”くーくん”って呼んでくれていた時、俺は明らかにまーくんの特別だった。
……でも、今は周りに数えきれないほどの人間がいる。
そんな中でまーくんにとって、俺が昔と同じ意味合いでの『特別』になることは容易ではなかった。
好きだってまーくんは言ってくれる。
それだけでも充分に嬉しい。幸せだと思う。これ以上ないほどの幸福。
最初はそれだけで良かった。…いや、良いと思いこもうとしていた。
しかし言ってもらえるだけで満たされたはずの心は一時的に表面だけ満たされて、すぐに大きな穴へと戻る。
たりない。何かが昔と違う。…何かが、無い。
それが何だろうって考え続けた結果、その理由が分かった。
…俺が欲しいのは、
(…もっと重くて、暗い感情)
「好き」なんて誰にでも言えるような軽い言葉ではない…それよりずっと重いモノが欲しい。
お互いの手枷足枷になって、簡単には離れられないような…、
”くーくん”に与えられていたような、
……もっと、まーくんの他に代えられない存在になりたい。
そうして濁る感情に身をくすぶっていたある日、思いもよらない事が起きた。
「柊 真冬…!!!」
帰り路。
後ろから突然罵声に似た声が聞こえた。
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