24
その獲物は
最近、突然まーくんの周りをうろちょろし始めた人間。
”俺”のことが好きだから協力してほしいっていう名目でまーくんに近づいた。
更に厄介なことに。
この人間が本当に好きなのは俺ではなく、まーくんの方で。
まーくんは自分に近づくための嘘に気づかずに、まんまと女の作戦にはまった。
本当、すぐ女に絡まれるんだから。
…そしてそんなまーくんも、その女に絡まれて悪い気はしていないらしく、……
(…まーくんのばか。本当、…すぐ騙されるの、流石にいい加減どうにかしないとこっちの心臓がもたない)
そういう人を信じやすいところも可愛いけど、…お願いだから本気でそういうのは俺だけにしてほしい。
…結局声をかければほいほい俺のことを好きになった尻軽な女だったから、好都合ではあったけど。
で、今俺は
空き教室にいた。
机に腰かけて、脚を組む。
冷え切った瞳で女を見下ろした。
「…何、まだ足りない?」
「足りない…っ、ねぇ、嫌なの…ッ、私は、蒼くんがいいのに…っ、もう、他の人はいやぁ…っ、蒼くん…っ、蒼くんがいい…っ、」
「気持ち悪いから名前で呼ぶな」
「ごめ、んなさ…っ、ぁ…っ」
まーくんがここに来るって予定がなかったらすぐにでもここから立ち去りたかった。
早くまーくんのところに戻りたい。
癒されたい。
そうして待つこと数分。
「……」
部屋の中ではない。
教室のドアの方で、がたりと小さな物音がする。
(…来た、)
…きっと、探しに来てくれるって思ってた。
チラリと人影を盗み見て、その目当ての人物の姿に内心満足して微笑む。
もうここにいる必要はない。
「これ以上付き纏うなよ」
そんな思いとは裏腹に無表情を繕って、冷たく吐き捨てる。
組んでいた脚を解いて机から降りた。
ドアの方に歩いている途中に待って、と後ろから声が聞こえたような気がするけど、そんなのどうでもいい。
使い捨ての駒なんかにかける言葉はなかった。
…この瞬間のためだけに一週間もまーくんといる時間を削って費やしたんだから。これ以上関わりたくない。
ドアを開けて、視線を下げる。
驚いたのか地面に座り込んでしまっている。
自然と頬が緩む。
「まーくん、探しに来てくれたんだ?」
嗚呼、嬉しい。俺に会いに来てくれた。
いつだって、誰といるよりもまーくんの顔を見たときが一番安心する。
…でも、
「…ひ…っ、」
「…――っ、」
俺の手が頬に触れようとした瞬間に、怖がるようにビクッと震えた身体。
…避けられた。
そう自覚した瞬間、胸を抉られたような痛みが走る。
こっちを見上げて、「…ぁ…っ、ご、ごめ…」焦ったような表情で申し訳なさそうに眉を下げて小さく謝る声に、強く唇を噛み締めた。
いらない。そんな謝罪の言葉なんかいらない。
「…(…俺が欲しいのは、そんなものじゃない)」
別にいいよ。それでも。
まーくんにどんな反応をされたって、…気にしない。
…だって、それ以上酷いことを俺はしようとしてるんだから。
だから、まーくんは悪くない。怯えられても当たり前だ。
確かにこんな場面を見られて、まーくんがいつも通り俺と接してくれるはずがない。
想像すれば…すぐにわかったはずなのに。
…あの屋敷で長い間過ごし過ぎて、見慣れすぎて、…そういう感覚すら麻痺していたんだということに初めて気づいた。
まーくんからふいと視線を逸らして口角を上げた。
胸の奥から込みあがってくる感情が邪魔をしてうまく笑っている表情が作れない。
「今見た通りだよ」
「…っ、」
「わかった?まーくんに言い寄ってきた女は、あんなところで発情してる下劣な女だったんだってこと」
女の膣内や肛門内で振動する機械の音。
…勿論俺が突っ込んだわけじゃない。
それだけじゃない。他にも見るだけでその女がいかにおかしいかを示す証拠が沢山あった。言葉にもしたくない。学校でするには不適切な行為。
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