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でも感覚的に残ってはいるのか、その声を聞いているだけで無性に苛々して感情が妙に波打つ。
…なんとなく思い出したくない。
「本当、真冬以外はどうでもいいんだな。お前」
「…離せよ」
呆れたように息を吐く仕草に、舌打ちをしそうな程腹が立って掴まれたままの腕を思い切り乱暴に振りほどいた。
お前と遊んでるほど暇じゃない、と隠しもせずに声音に出して帰ろうとすると「待てよ」と呼び止められる。
…本気で怠い。面倒くさすぎる。
「真冬を家に戻せ。どんな理由があったってそこまでしていいわけないだろ」
「……」
どこまで知ってるのか、そうやって何もかもを把握しているような口調が気に入らない。
振り向けば、俺を睨み付けている男はさも自分が正しいように台詞を吐く。
「いい加減、やり方が間違ってるんだってことくらい気づけよ」
「…まちがってる?」
ピクリと眉が寄った。
普通なら一二回冷たくあしらえば諦めるのに、やけに食い下がってくる。
あからさまに不機嫌を態度に出しながら、男を見返す。
…もし、
たとえ万が一、そうだとしてもコイツに言われる筋合いなんかない。
「お前、…真冬のこと好きなんじゃないのか?」
「…は?」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。
当たり前のことを聞いてくる男に、唖然とした声が漏れる。
(…ああ、でも今ので完全に思い出した。)
何も知らないくせにまーくんを横取りしようとして、俺とまーくんの邪魔を何度もしてきた男。
確か、……”俊介”って名前だったような気がする。
まーくんがよく呼んでいたからか、珍しく記憶に残っていたらしい。
(…まーくんが、呼んでた…人間)
自然と目が据わるのを感じた。
問いには答えない。
無表情を装って男を冷たく見据えた。
そんな俺に対してぐ、と少し怯んだ様子の男が「好きだって言うなら、」と叫ぶような口調で続ける。
「だったら、もっと普通に愛せないのかよ…!」
「…っ、」
責めるように詰る声。
その言葉に、ガツンと頭部を殴られたような感覚が走る。
「…本気で真冬のことを好きになったんだとしても、そのまま女子に対する感じで普通に好きになって、真冬と一緒に過ごして、どこかに一緒に遊びに行って…そんなんじゃダメだったのか?」
「……」
”普通”
無意識に視線を逸らした。
逸らしたことにさえ、内心動揺しすぎていて自分で気づけなかった。
「…結局お前は、真冬が好きなわけじゃなくて真冬以外が全部嫌いなんだろ」
「……嫌い…、」
「そうだろ。だから真冬に近づく人間を嫌って憎んで、全部から真冬を遠ざけて閉じ込めて、…そんなことして本当にアイツが喜ぶと思ってるのか?」
グチャ、と絶対に踏み入られたくない場所を土足で荒らされたような感覚。
ぐ、と唇を血が滲むほど噛み締める。
全部わかったような口調で、
(…煩い、)
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