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「そうやってお前は」


説教じみた男の言葉。

耳鳴りがする。
自分の言葉が、行動が全部正しいと思い込んで、


「自分のしたいことだけを真冬に押し付けて、」


正論ぶった台詞を、俺に押し付けてくる。

……うるさい。


「アイツの思ってることも望んでることも何も聞こうとしないで、…そんなんで真冬のこと本当に好きって言えるのかよ…!」

「……さい」


呟いた言葉はほどんど声にならない。
喉に何かが引っかかったように潰れて、掠れている。

耳障りな、音。

煩い。煩い煩い煩い煩い。

そうして、浴びせられる…毒をもった言葉  に、


「所詮お前が好きだと思ってる感情は、そういう恋愛的な意味じゃなくて、依ぞ」

「…っ、うるさい…!!」


悲鳴にも似た絶叫が漏れた。
人生でこんなに声を荒げたのは初めてだったような気がする。
でも、それに気づかないくらい、…動揺していた。

久しぶりに大声を出したせいで、うまく息が吸えない。

まるで今にも泣き出しそうな子どものように、心がざわついてぐちゃぐちゃになる。
破裂しそうな感情が、膨らんで胸を刺激する。


「…っ、」


言われなくたって、


(…俺だって、それができるなら…っ、)


息が詰まる。
やるせない想いが胸を締め付けて、それをぶつけるように声を吐いた。


「お前が…っ、まーくんに近づくから…、あの時嘘をついて、まーくんに変なことを吹き込んだりしなければ…、あんなことを言わなければ俺は…ッ、」


視界が滲む。
泣きそうな衝動が喉元からせりあがってきて、込み上げてきた感情が言葉を途切れさせた。


なんで

…なんで、邪魔するんだよ。


お前さえいなければ、こんな関係にはならなかったかもしれないのに。



喉の奥に詰まった何かが震える。

視界がぐらりと歪んだ。
眩暈が酷い、
頭が痛む。ガンガンと音が鳴り響く。




「…まーくんじゃなくても、他の誰でもいいんだろ」



ぽつりと掠れた声が零れる。
熱く震える喉をゴクリと上下させた。


コイツにとって俺が何よりも大事に想ってる人は大勢の中のひとつで、いくらでも代わりがいる。
それがきっと他の奴でも充分満たされるんだろう。

困らない。いなくなったって、少し悲しんで終わり。
何事もなかったかのように元の日常に戻れる。



でも、


(…俺は、まーくんじゃないとだめだから)


他には何もなくて、
まーくんがいないと生きていけない。

言葉通りの意味で、その存在がなければ死んでしまう。
呼吸すらまともにできなくなる。
他の誰よりも欲しくて、求めていて、焦がれている。


だから俺にはまーくんしかいない。

…まーくん、だけ。

改めて自覚する感情を胸に抱えながら、ふ、と身体から力を抜いて薄く微笑んだ。


「さっきお前が言った通りだよ」

「……」

「俺には何もない。まーくん以外に必要なものも、好きになれるものもなかった」


…見つけようとした。
必死にどうにかしようとして、足掻いて。

でも、やっぱりこの世界はまーくん以外は全部狂ってて…気持ちの悪いものばかりで、俺にとって無価値で無意味なものだった。
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