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紫色になって腫れている。
小さい頃、よくまーくんが親につけられていた傷に酷似していた。
広い範囲にそれが浮き出ているのに加えて、あまりにも他と色が違いすぎてすぐに目につく。

……あの男に触れられる前まではこんなものなかった。


「ここ、蹴られた?痛かった?」

「…っ、ぃ゛、た…ッ、」


わざと指でその脇腹の部分を何度か押すと、ぎゅ、と眉を寄せて苦痛の滲んだ声を上げる。
そこを庇うように若干身体がくの字になって、汗を滲ませた。

その様子を眺めて、…どうしようかと悩む。


「…でも、まーくんが望んだ結果なんだから受け入れないとな」

「ッ、や゛、め…っ、そこ、や…ッ、」

「なんで?ドMなまーくんには丁度いいかなって思ったんだけど」

もうそこに触れないでと首を振るのを尻目に、ふ、と揶揄うような笑みを零してもう一度強く指で押す。より大きな痛みに答える声。

俺があの場にいなかったら、こんな痛みでは終わらない程もっと酷いことになっていたかもしれないのに。
…本当にそういうこと、わかってるのかな。


それにこっちの痣はさっきの小さい噛み跡程簡単に上書きできない。
消すこともできない。
指先でそこに軽く触れて、言葉を零す。



「…どうして欲しい?」

「…ッ、どうして、って?」

「ここ、酷い青痣になったままだと嫌だろ?」

「…え、…いや、だけど…。どう、いう…」


問いかけた言葉に、戸惑いを含んだ声。

こういう場合、いっそのこと殴って更に酷い痣をつけたらいいと思う人間もいるんだろうけど、
生憎とそこまで俺は変態じゃない。


「全部隠れるくらい…キスマーク、つけようかな」

「…ッ、」


ぽつりと考えながら呟いた言葉。
チラリと視線を向けると、まーくんの顔から一気に温度が失われたのがわかった。

それを見て悩んでいた思考回路を止めて、即決した。


「うん。それにする」

「…っ、まって、」

「…何、」

「…だ、って、そんなこと、したら」

「そうだな。かなり痛いだろうけど、…我慢して」


この大きさの痣だと何十回つけないといけないかわからない。
一回一回まーくんはキスマークつけるときいつも凄く痛がるし、軽くつけたときでさえ痛がるのに、この濃い跡を上書きするとなればどれだけ痛い思いをするか容易には想像できない量だろう。


「じっとしてればすぐに終わるから」

「…っ、やだ…ッ、やだぁ…っ、怖い…っ、痛いのやだ…っ」

「…我儘言わない」


どっちの方が我儘だ、と自分の言葉に自分でツッコミながら、「今から俺とセックスするのと、キスマークつけられるの。どっちがいい?」と聞けば、「だ、…ッ、な…っ、」とよくわからない声を出して、目いっぱいに涙を溜めたまま暴れていた身体を静かにさせた。

…そんなに俺とヤるの、嫌なんだ。

なんて、二択で出したのは自分のくせに得た反応に結構傷ついて、む、と不機嫌に眉が寄る。
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