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でも、…多分手出しはされていないはずだから。

俺が言うことを聞いている間は、まーくんの安全は保障される。

そういう、契約をした。

視界の端で伸ばされる手に、僅かに一瞬身体が震えて、
そんな自分に内心舌打ちをした。


…俺の反応に、やはり嬉しそうにほくそ笑む顔。


「まだ触れられるのが怖いのか。父親なのに悲しいなぁ」

「俺は、貴方のことをそんな風に思ってませんから」



自分だって、それに似た感情さえ俺に抱いていないくせに。


「色々女も用意してやったのに縁談も遊び道具も全部跳ね除けるとは…ああ悲しいよ父さんは」

「…俺の好みに合う人間がいないだけです」


どれもこれも、全てまーくんには敵わない。
せめてまーくんの可愛さに敵う、まだ負けない程度の人間がいれば話は別だけど、…そんな人間が他にいるはずもなくて、


「あの子どもは遊びだけにしておけと言ったのにな」

「…遊び、に決まってるじゃないですか」


ぽつりと言葉を零す。
唇の端を上げて笑ってみれば、なんとなくそんな笑い方さえも目の前の人間の表情に似ているような気がして自分への嫌悪感に押し潰されそうになる。


「ほう…そうなのか?」

「別に…気まぐれで屋敷に連れてきただけで、なんとも思ってませんから」

「…だったら今すぐにでもアレを男共の玩具にしてもいいんだな?」

「…っ、」



良いわけがない。
頷けるはずがない。


けど、



「あんな玩具でいつまでもガキみたいなままごとしてないで、早く妻をとってこの家を継げ」

「……」

「どちらにせよ、最終的にはお前の意思なんか関係ないがな」



何度も言われ続けている言葉。

無意識に見上げる目が据わる。


「それにお前には人をいたぶって楽しむ本能がある」


自分と同じように、と舌なめずりでもしそうな声音で付け加えられる言葉にゾッとする。



「そんなの、俺にはありませんよ」

「証言も映像も届いている。無駄な嘘をつくな」

「……」


顔を背けて、口を閉ざす。
二度目の否定は…できなかった。
唇を噛んで顔をあげない俺に、声がかけられる。


「そうだ…息子よ。今から、ゲームをしないか?」

「ゲーム?」

「ああ、昔よくお前にやっていたことだ」


懐かしいだろう?と嗤う声に、俺は今から起こりうる自分の運命を悟った。
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