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離れないといけない。
逃がさないといけない。
これ以上俺のせいで泣くまーくんを見たくない。

そう、思っているのに。
簡単には手放せなくて。

…そもそもそんなすぐに離れられるくらいなら、あんなことしなかった。


だから、せめてこれ以上苦しめないように、手を出さないように、

できるだけ近づかないようにした。


……なのに。


「…っ、」


部屋を出ようとした俺を後ろから抱きしめてきて「………いやだ。…行かないで」なんて殺し文句にも程がある。

ただ寂しくて誰かにいてほしかっただけなんだろうけど、そんなことで俺の心は異常なほど喜んで、頬を熱くする。


(……まーくんは俺じゃなくても、誰でもいいんだから)


こんな些細なことで喜んではいけなかったのに。

そのせいで結局、また…傷つけた。


「…っ、」


(…泣い、てる…)


一生懸命俺を引き留めようとして、したくもないはずなのにそういう”行為”をしてでも振り向かせようとして。

上から、堪えきれなかった雫が降ってくる。
…冷たい。

騎乗位で、まだお互いに繋がったままの身体。
嗚咽を漏らす声が大きくなると同時に、肩も小刻みに震えていた。


頑張って笑顔を取り繕おうとしている表情とは反対に、その目からは幾度も涙が零れ落ちた。



「なんで、泣いてるの…?」



わかっているくせに。

聞いて、


「…ッ、わかんない…」


言葉にした瞬間、自覚したのかくしゃりと悲痛に顔が歪んで降ってくる雫の量が増えた。
それはぎゅっと瞼を瞑った瞬間に、更に量を増す。
ぶんぶんと首を振って否定しようとしているのがわかって、苦痛に顔が歪んだ。


自分でもどうして泣いてるか理解できてなくて、それなのに…ぼろぼろと涙を流して。
その表情から目が離せなかった。


頬に手を伸ばして触れる。
やわらかい肌が濡れて、赤みを帯びていた。


「…(……まーくんが、泣いてる。)」


ゴク、と戸惑って唾を飲みこんだ。
再び止まることを知らないようにそこに流れ落ちてくる温かなものに、自然と胸が締め付けられる。


(…嗚呼、だめだ)


こんな顔を見て耐えられるはずがない。

…結局、俺はどんなことをしても…まーくんに好きになってはもらえなかった。


ふ、と苦笑まじりの息を吐く。


「…あーあ、やっぱりダメだな」


もう、限界だと思った。

何もかもが、…すべてが…限界だと、思った。


そう自覚した途端、ヒク、と熱を帯びる喉。


「……あーあ」


感情の揺れを隠すように瞳を伏せて、もう一度…声を吐き出す。
…ごめん、と何度も呟いてその後頭部に手を回して引き寄せ、抱き締めた。


「今日で、最後にするから、繋がったままで寝たい…」


お願い。と懇願を強く含んだ声音を出し、縋るように顔をその肩に押し付けた。


「…うん」


少しの沈黙の後、こくんと頷いて受け入れてくれる声。
熱く震える瞼に、思わず目を緩く細めて微笑した。


これで、最後にしよう。


今度こそ、…本気でそう思った。
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