3
「…っ、」
………まーくんが、俺に会いたいって思ってくれた……?
そんなはずない。
でも、もしかしたらって思って。
(…だって、あの時…本当はそうなるように、そうしてくれるように、ギリギリまでまーくんを追い詰めて、壊して、歪ませようとしたのは俺なんだから)
自虐して。
否定して。
望んで。
拒絶して。
祈って。
……胸が、震えた。
自然と身体に力が入って、揺れた腕のせいで鎖が音を鳴らす。
微かに開いた瞼を通じて落ちてくる血なんか気にならない。
…来てくれようとしたから。
それだけでもう俺の意思を変えるには十分すぎる出来事で、
死んでもいいかな、なんて思った心はすぐに砕けて消えそうになる。
「……ッ、…嫌、だ…っ、」
無意識に零れる、未練。
……やっぱり、まーくんに会えないまま、死んでいくなんて嫌だ。
あんな顔をさせて、あれが最後だなんて…嫌だ。
…そう思った。
「…(…もう一度、まーくんに…会いたい)」
会いたい。
……逢いたい。
…でも、
『…ッ、ぁぁあぁ――ッ!ん…っ、ふ…ッ』
『あーあ、傷だらけにしやがって。がばがばじゃねえか』
『ひぁ、あぁっ、…ッ、あぁっ、んぅ…』
声。
監視映像から、流れてくる…音。
そして、
「…っ、まー、…くん…?」
呟いた声が震える。
音の方向に視線を落として、目を見張った。
ぐにゃりと、世界の平衡感覚がおかしくなる。
もう鎖は外されているのに、それでも…身体が凍り付いたように動かない。
…動けなかった。
地面から足を接着剤でくっつけられたように、足が鉛のように重くてビクともしない。
「…………まーくん」
(…本当、に?)
勿論、画面越しなわけで俺の声に応えるものはない。
指先で触れた手は触れたい相手に届かなくて、意味を成さなかった。
いつの間にか真っ赤に染まっていた着物さえ、視界に入らない。
まーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくんまーくん
「……何、これ…」
アレはまーくん、のはずなのに。
『ごしゅ、じ、さま…ッ』
『…はは…ッ、』
「……ッ、」
頭の上から冷水をぶちまけられたような、気分と体温の低下。
[back][TOP]栞を挟む