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そのまま倒れ込んでしまいそうな感覚に襲われて、一瞬上と下がどこにあるかわからなくなった。
いっそのこと、気を失うことが出来たら楽になるだろうか。
「……嗚呼、もう」
どうしようもない。
目にかかる前髪を退けることすら、できない。
そんな余裕はなかった。
(…まーくん、)
ずっと、求めていたものがすぐそこにあるのに、届かない。
…そんなにぼろぼろになって、
思い通りにされて、
御主人様なんて呼んじゃって、
他の男に抱かれて、
泣いて、
抱き締めて、
ずっと俺が言ってほしかった言葉を…望んでいた言葉を
…そんなに簡単に他の人間に与えて、
「…どうして、なんだろう、…な…」
どうして、まーくんは変わらないんだろう。
胸を締め付ける、どうしようもない程の嫉妬と切望。
…こうならないために離れたのに、結局俺が傍にいたときよりも傷ついてて、それでそんな相手を好きになるなんて
どうしようもないくらい、
…まーくんだなって、思う。
馬鹿みたいだけど、泣きそうになるくらい…まーくんらしいと、思ってしまう。
「……」
だから、
…やっぱり、俺は間違えていたんだって、
それを、自覚した。
きっと考え方自体、まーくんの望むものとは違ったんだろう。
もっと酷くされた方が良かった?
昔みたいに、雑に扱われたかった?
…その方が、愛してくれた?
スクリーンに触れて、画面越しにその様子をじっと見つめ続ける。
それにしても、
「…まーくんは、俺に会いに来てくれたんだって思ってたんだけどな」
もし、そうなら、
なんで、
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでこんなことになってあれは本当にまーくんかなまーくんじゃないあんなのまーくんじゃないそんなわけないのにじゃあどうしてまーくんと同じ顔で同じ声で同じ身体で…
ぐちゃぐちゃになった思考は、ドロドロに溶けて、頭がおかしくなりそうになる。
ひたすら答えのない理由を求めて、突如ピタリと音を立てて…唇から零れ落ちる疑問符。
「……なん…で…、?」
他の男に、…他の…人間に、
血が滲むほど唇を噛んだ。
わかってる。
…ちゃんと、わかってる。
あれはまーくんの意思じゃない。
椿に無理矢理、そう思うようにされただけだ。
…俺が、まーくんにして、
まーくんが俺にしたことと同じように。
ああやって無理に抱かれても泣きながら、嫌なのに、それでも縋ってしまうのも。
相手に捨てられると思ったら、怖くて望まれることは何でもしてしまうのも。
捨てられたくなくて、
誰かに傍にいてほしくて、
愛されたくて、
でも、…誰も愛せない。
…全部、俺の好きなまーくんそのままだった。
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