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だから、きっとまーくんは相手のことなんかどうでもいいって心の底では思ってるはずだ。決して、好きにはならない。

…好きになんか、なれない。

はず、で、


「…(…でも、)」


ドクン、と心臓が嫌な音を立てて跳ねる。

…本当に… それだけ…?

いつまーくんが、”普通”になるかわからない。
今までは違ったかもしれない。

でも、…今度は、本気かもしれない。

…もしかしたら、本当に好きになったのかもしれない。


そうして、

『…っ、ここまでされて好きだって言えるもんなら言ってみろ…ッ』

『…っ、…ひ、ぁっ…!』


瞳に映る映像から届く音に、ノイズが混じった。


「…ぁ、」


無意識に、
反射的に離れようと、して、

力のうまく入らない足を動かす

寸前、

耳に届く…声。


『…すき、です…ッ、』

「…――ッ、…」


(…す、き…)

グチャリ

汚い音で…引き、裂かれる。

本気で心臓が鷲掴みにされて潰されたような気がした。
捻じれる。
ぐちゃぐちゃになって、裂けて、血が滲む。

椿やあの人に実際に肌をナイフで抉られたよりも、ずっと苦しい。
裂ける。心臓が、壊れる。

…痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


「…なんで、…ッ、」


悲痛に漏れる音は感情の揺れるあまりに音にさえならなくなる。
ふらついた身体を支えられない。

なんで、なんで、なんで、

なんで、


「まーくんはずっと、」


…そのまま、なんだろう。

何が、そんなにおかしくさせたのかな。
心臓の辺りをぎゅっと握りしめながら、呆然と椿とセックスしている姿を眺めていると不意に納得する。

(……嗚呼、そうか。)

そうなのかもしれない。
知らない男に犯されて悦んでいるまーくんが映る監視カメラの映像を目に焼き付けながら、声を零した。

ここに来たのは。
屋敷に来ようと思ったのは。

まーくんは、俺が好きで…会いに来てくれたんじゃないんだ?


「………はは、そっか…」


期待なんかした俺が悪い。
そうだった。俺がいなくて寂しいなんて思ってもらえるはずがなかった。

どうして、そうなったのかもしれないだなんて思いこんだんだろう。
夢を見てしまったんだろう。

嬉しくて喜んでしまった分、それだけ落胆は大きくなる。

…だったら最初から期待なんかしなければ、よかったのに。
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