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…可愛い。可愛くてたまらないんだ。

存在自体が大切で…大切過ぎて、どうしてこんなに愛しく感じるんだろうって、不思議に思える感情すら嬉しくて。


「……(……あのさ、)」


信じられないだろうけど
本当に俺にはまーくんしかいなくて、他には何もいらないんだよ。

多分、それは他の誰よりも重い感情で、他の誰にも理解できない。


…だから、


「愛してる。これからもずっと…まーくんだけを愛してる」

「…っ」


顔を近づけようとすれば、ビクッと大きく肩を震わせるのを見て、ぎゅ、と胸が痛む。
額に唇で触れて、驚いたように目を軽く見開いてこっちを見上げる顔がやっぱりどこか可愛らしくて笑みを零した。

相手の答えを求める意味はない。
答えなんて、もうわかってるんだから。

抱き締めている身体越しに体温を感じる。
息遣いを感じる。
存在全てを感じる。
それを実感した瞬間、どうしようもなく泣きたくなった。


「…―――――ッ」

「…どうか、今度こそ本当にまーくんが幸せになれますように…」


心底、願っている祈りを口にして。

ゆっくりと身体を離す。
優しくその手から奪い取った鋏を握って、刃の先を自分に向けた。
折れて腫れた手首のせいで汗が更に額に滲む。

確実に、心臓に刺さるだろう位置。

…簡単には死ねないだろうな。
こんな鋏では、このまま急所に突き刺したとしても即死できない。
きっと、今は想像もできないぐらい苦しむことになる。

そう、思った。

でも、それでも躊躇わなかった。

数秒後に訪れるだろう激痛なんてどうでもいい。
たとえこの身体が機能しなくなっても、構わなかった。

その分だけきっとまーくんは泣いてくれるだろうから。
それを死ぬ前に見ることができれば、それだけでここまでする価値は充分あった。

だから死ぬことの怖さなんか、欠片もなかった。

……それに本当はこうすることでまーくんが助かるとか解放されるとか、全部どうでもよかったんだ。


ただ、

どうしても…その、他に向いているまーくんの意識全部を俺の方に向けたくて。

こっちを、向いて欲しくて。

そんな子どものような独占欲に、微かに笑みを浮かべながら瞳を伏せる。

躊躇なく、柄を掴んだ腕を引いた。


「や…っ、」


悲鳴まじりの声と、伸ばされる手。

状況を把握できずに驚愕に見開かれた目は、恐怖を滲ませている。
そのせいで、一瞬動作が遅れるのがわかった。

一気に青を通り越して真っ白になる顔に、頬をほころばせる。


「……(…嗚呼、)」


……やっと、その瞳に俺が映った。


堪らない程の安堵感と幸福感。
椿なんて入る余地がないくらい、全ての意識が俺に向けられているのを感じる。

直後、


「ッ、」


微かに止めるように伸ばされた手によって軌道を変えた刃が、ずぶりと皮膚を貫通する感触がした。

息が、できなくなる。
刺さった部分から、灼けるような熱が全身に広がっていった。
ドクドクと身体全体が心臓になったような、鼓動がやけに大きくて速い。
ぶわっと汗が噴き出るような感覚。

激しい痛みのせいで一瞬視界が真っ赤になる。

ぐらりと景色が  傾いて、

意識がなくなったと気づいたのは、次の瞬間目の前に地面があって、今自分が倒れていると判断できてからだった。


「あおい…ッ!!、あお、い…ッ!!」

「…ぁ…」


すぐ傍で、名前を呼ぶ声。
霞む視界で、眉を下げながらこれ以上ないってくらい泣いている顔が見えた。

涙でぐちゃぐちゃに濡れて、青ざめた顔で瞼が腫れるほど泣き腫らしている。
それは、幼い頃…離れ離れになった時の表情によく似ていたから、面影が記憶の中のものと重なって


「…やだ…っあおい…ッ!!あおい…!!ぅ…ッあああ…!!…」

「…っ、……」


そんな姿を見て、じわりと胸が熱くなって視界が滲んだ。

本当…こんな状況でしか幸福を感じられない俺は、どうかしてる。

しがみついて泣きじゃくってばかりのまーくんに笑って、瞼を閉じた。

――――――――――――

好きだ。

好きだよ。

何を犠牲にしても構わないぐらい、まーくんが好きだよ。
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