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「つ、椿様…!!この部屋に入ってはなりませんと申し上げたはずですが…!!」

「いいじゃない。蒼も見つけられたことだし」


焦ったように声を荒げるスーツ姿の男の人に、椿と呼ばれた女の人がふふ、と上品に笑みを作る。


(誰、だろう…この人)


焦っている男と、余裕そうに対応する女のひと。
スーツの男の人は、多分蒼の下で働いている人だろうとなんとなくわかった。

でも、いきなり訪れた訪問者たちがそんな会話をしていて。
状況についていけない俺はとりあえず蒼の方を向く。

……うまく悪夢を逃れることができたらしい。

何も気づいてない様子で、随分と穏やかに眠っている。


「椿様…!!」

「蒼は寝ているみたいだから、声はおさえてあげないとダメでしょ?」


しーっと口に人差し指を当てて妖艶に微笑む椿さんに、男の人は彼女に見惚れたように赤くなって、それからすぐに青ざめた。

椿さんの身体に触れるか触れないかのところで、手を宙でわたわたさせている。
本気で焦っているらしい。


「も、もし椿様を柊様に会わせたことがばれたら殺されてしまいます」

「だいじょうぶよ。蒼は私の言うことには逆らえないから」


殺されるって言葉にも驚いたけど。
さらに耳を疑うようなことをさらっという女の人に、目を瞬く。


(蒼が逆らえない…、ってどういうことだ…?)


多分、その言葉の通りなのだろう。
でも、蒼が従う相手をみたことがない自分にとって、それは信じられないことだった。


「……まぁ、蒼はしばらく起きることなんてできないと思うけれど」


蒼に視線を向けた彼女は。
小さく、でもこっちに聞こえるくらいの声で意味深にそう呟く。

状況を把握できてない自分には、何が起こっているのか訳が分からず、呆然としてそのやりとりを傍観していた。

唇に指を当てた女の人が不意に、にこりとこっちに向かって微笑む。
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