視界の端に映る、赤色が濃くなっていく。(蒼ver)



「……まーくん、」


呼びかけても、応える声はない。
さっき風呂でナカに入った精液を掻き出すときも散々暴れて泣きだして、結構大変だった。

最初はほとんどぼうっとした感じで無反応だったのに、後孔からどろりと出てきた精液を見て何かを思い出したらしく、泣き始めてしまった。


髪は何日も洗ってなかったから血と汗で髪同士がこびりついて、頭だけじゃなく、身体も垢と傷だらけで。
お湯が染みて余計に激痛が走ったらしく、水に触れるのも怖がっていたから洗うのが難しかった。


……それだけじゃない。
屋敷に戻ってきてからほとんど錯乱しているといってもおかしくない状態だった。
ずっと何かに怯えたように泣きじゃくって逃げようとして隅で膝を抱えていて、


(…かなり、戸惑った)


瞼を閉じれば浮かぶ光景。


――”くーくん…ッ、くーくん…っ、!!!どこ、どこ…ッ?”


『くーくん』


俺の、昔のあだ名。

それをずっと呼び続けていた。

ずっと昔のまーくんに戻ったみたいに、まるで精神年齢も昔に戻ってしまったみたいに。
ほんの少し離れる度に泣き喚いて「やだ……ッ、おいて、かないで…っ、」って涙をぼろぼろ流しながら俺にしがみついて離れなかった。

……何度も抱きしめて、声をかけて、でもそれでも落ち着かなくて

どうにもできなくて、結局鎮痛剤を打って眠らせた…んだけど、

一体まーくんに何が起こっているのかよくわからなくて、不安になる。


本当に

(…本当に、全部思い出した…?)

そもそも完全に記憶が戻ったんだとしたら、今まで俺がしてきたことと何が違ったんだろう。

湧き上がる疑念。
今までだってまーくんがその名を呼ぶたびに喜んで、…期待して、結局すぐにその期待は裏切られた。
…だから、今回もそうじゃないとは言い切れない。
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