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「……」

「……ん……」


膝の上に乗せた彼の頭を撫でると、傷が痛むのか小さく声を漏らす。
一瞬その顔がやけに蒼白に見えてどうしようもないほどの不安に駆られる。
口元に耳を近づけると、浅いけどちゃんとスースーと静かな寝息が聞こえるのを確認して安心した。

焦って速くなった鼓動が落ち着いていく。
ほっと胸をなでおろした。
場違いだと思えるほど、酷く穏やかな風が頬を撫でていく。

膝にのせている頭に巻かれた真新しい包帯と頬にあるガーゼ。
少し緩く身に着けた浴衣から覗く肌には同じように包帯を巻いてある。


(…こんなに怪我をしてたらちょっと触れるだけでも相当痛いだろうな)


…何度泣いたんだろう。何度嫌な目に遭ったんだろう。
想像しただけで胸が苦しくなった。


まだ頬に残る痛々しいほどの涙の跡に思わず瞳を伏せた。


「……ごめん、」


何に対しての謝罪か、自分でもよくわからない。

その髪を撫でると、軽く眉を寄せて身動ぎをするまーくんに吐息交じりの笑みを零す。
そして浅い呼吸を繰り返して、前に見た時よりも痩せてしまった身体に手を回してだきしめた。

今すぐにでも死んだっておかしくない怪我をしていたことを考えると、こうして一緒にいて、傍に大切な人の体温を存在を感じられることが……どんなに幸せなことなんだろうと思う。

生きてる。
生きてる。
まーくんが、ちゃんと生きてる。
生きて、そばにいる。

あんな目にあって、まーくんはすごく辛い思いをした。
苦しい思いをした。
きっと死にたくなるようなことがいっぱいあったと思う。

でも。

それでも。


「…っ、よかった…。…生きてて、…ほんとうに…よかった…」


今にも崩れ落ちてしまいそうなほどの安堵で、込み上げる何かに声が震えた。

さっきよりも抱きしめた腕に力を入れて、その肩に顔を埋める。
抱きしめた自分の手が、全身が、震えているのを感じた。

その存在を感じたくて、キツく抱きしめる。
まーくんが起きてたら絶対に苦しいって慌てたような表情で離れようとジタバタと手を動かしていただろう。
その光景を想像したらなんだかおかしい。
自然と笑おうとして、でもどうしようもないほど熱く喉の奥が震えてうまく笑えなかった。


「…まーくん」


抱きしめていると伝わってくるトクン、トクン、ときちんと鼓動を奏でる音も。
ふわりと柔らかくて茶色がかった髪も。
その綺麗な雪のような白い肌も。
どこか抜けてて、それでもどんなことにも一生懸命で、見ていて危なっかしくて放っておけない性格も。

…その存在すべてが愛しい。

誰にも、渡したくない。


(…だから、俺は…)


欲しいものを手に入れるためなら、何でもする。
…相手の気持ちなんか関係ない。


「…くー…くん…」


ぽつりと寝息交じりの声が聞こえて、服の裾が少しだけ引っ張られる感覚がした。
俺の夢でも見ているのだろうか。
縋りつくようなその動作に、胸が高鳴る。


「…なに、まーくん」


寝言でも俺を呼んでくれた。
そしてその名を呼ぶタイミングがまるで俺の声に応えてくれたように感じて。
それがあまりにも嬉しくて、思わず笑みを零す。

その寝顔があまりにも可愛くて、愛しくて、我慢できずに欲求のまま額に唇で口づけた。
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