やっと、会えた。(真冬ver)




ずーっと。
これでもかってくらい長い時間、腕の中に閉じ込められた。
畳の、和室っぽい部屋。


くーくんとおれ。
…ふたりだけの、空間だった。


お互いの呼吸さえも聞こえそうな程静かで、ちょっとだけ緊張してしまう。
…相手の鼓動だけがトク、トク、と聞こえて、あまりのドキドキに心臓が破裂しそうだった。


後頭部に回された手で胸に押し付けるようにされて、むぎゅ、と息が詰まりそうになってふがふがと唸ってみる。
片手抱きみたいな感じなのに頭を押さえる手の力が思いのほか強くて呼吸が苦しかった。


「くーくん…ぐるしい…」

「…ああ、ごめん。やっぱりまーくんといると幸せだなって思ったから」

「…っ、む、む…」


緩められた腕の力に少しほっとした瞬間に圧迫からぷはっと逃れた顔をあげた瞬間に、そんな、そんな…凄く嬉しいことを真剣な表情で言ってくる。

じゅわ、と頬が熱くなってぎゅぎゅ、と眉が中心に寄った。

は、はずい。
というか、くーくんがなんか、いつの間にか凄い色気ムンムンになったような気がして、しかもこんな台詞を吐いてくるから…心臓が壊れそうになる。


ばかばかばーかと、そういえばクラスの男子が女子によく真っ赤な顔で言ってたっけと思い出した。
そんな気分になった。ぎゃ、照れる。


「まーくんは?」

「…お、おれも、しあわせ…です」

「…へへ、そっか。良かった」


ちょっとだけ照れて視線を逸らしながら頷くと、なんだか泣きそうな顔で笑顔を浮かべるくーくんにズキリと何故か胸の中心部が痛くなった。


(…なんで、だろ…)


わからないけど、その表情を見た瞬間に何かがおかしいような気がして、
でも、そんな疑念を振り払って笑いかけた。

あわあわと視線と話題を逸らす。


「そ、それより、なんかしよ!あ、そうだ。外にあそびにいこーよ!」


浴衣の大きい裾をふりふりとして遊びたいアピールをしてみる。
今度はくーくんにお花の冠とか作ってあげたいな。絶対に可愛いだろうなーと想像を膨らませた。
…けど、何故かわくわくしているおれと違ってくーくんは困ったように微笑んだ。


「んー、でも…外に行ったら怖い人が沢山いるよ?」

「こわいひと?」


はてなマークで首を傾げる。

「まーくんがあまりにもそそっかしいから余計に危ないかも」って悪戯っぽく笑うから、むーっと眉を寄せる。
別におれ、そこまで言われる程変なことしたことないし。そ、そそっかしくなんかないし…多分。


「子どもあつかいしない!ちょっとみにいってくる」

「あ、ちょ…っ、」


くーくんに「め」と子どもが悪いことをしたようなお母さんみたいな感じで指を突き付けた後、「ほい!」と隙をついてスルリと腕の拘束から抜けた。

焦ったような声に対して「へっへっへ。追いつけまい!」とちょっと調子に乗りながら、トタタと畳で出来た床を踏んで軽く走る。

「ひぎゃ…ッ、」動かした瞬間、どこってわからないぐらいうぎぎぎと叫びそうなレベルで身体に走る激痛に叫び声をあげて、でもくーくんに引っ張って止められないように頑張った。

やっとのことでたどり着いたそこのドアをガラリとあける。
こっそりと膝を床についたまま、外を覗いてみた。


「…っ、うわ、」


…黒い服の人達が沢山歩いてた。

よく仕事に行く時にお父さんが着てるような、なんだっけスーツとかいうやつ。
しかも無表情な人ばっかりで、めちゃくちゃ怖い。


「…し、知らないひとが…いっぱい」


うう、と泣きそうになりながら、助けを求めて「ね、くーくん…」と手を伸ばそうとして、

…そうして、くーくんがまだ追いついてきていないのに気づいた。


「?」と後ろを振り返る。


…と、


何故か転んでしまったらしく、そんな意外な姿に「くーくん?」と首を傾げた。
うまく立ち上がれないらしい。
何度か片手を床について起きようとして失敗して、そしてやっとのことでよろよろと近づいてくる。


「…くーくん…、どうし…」

「大丈夫、だから。…っ、ちょっと待ってて」


また倒れそうになっているから段々と見ていられなくなってきて、駆け寄ろうとした。
でも、大丈夫と言って首を振るくーくんに言いかけた言葉を飲みこんで頷く。


「…何でもないよ。」


どうしたのかと聞く前に先にそう言われてしまった。
結局こっちに来る頃には疲れたような表情になっていて、額に汗が滲んでいた。

…何でもないはずないのに。

綺麗な手がおれを通り越して、ドアを閉める。

そして、なんとなくそれを目で追っていると、不意に絡まった視線。
瞬間、くーくんが何故か悔しそうにその顔を歪ませる。



「ちょっと、後ろ向いて」

「…?なん、」


肩を手で掴まれてぐい、と強引にドアの方を向かされた。
なんだなんだと戸惑っていると、


「…っ、わ」

「…あーもう、まーくんってば…凄い焦った」


後ろから首に腕を回して抱きしめられる。
トン、と何かが首のところに触れた感触。


「く、くーくん?!」

「ん…、疲れた…」


こてんとおれの首筋に額をのせたまま、安堵したようにもう一度息を吐いた。
その吐息が直で首筋に当たって、しかも首筋に触れる髪もくすぐったくって変な声が出そうになる。

抱き締めたまま後ろからもたれ掛かるように体重をかけられて、ちょっと前かがみになった。
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