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それに、甘い香りが後ろからふわっと鼻孔をくすぐって、凄く懐かしいような感情になった。
「ねぇ、くーくん」
「ん?」
「なんで、さっきからずっと左腕使わないの?」
おれを抱きしめる時も、左腕だけぶらんとしたままだった。
いつも前からぎゅってするし、大きい袖の服を着てるから今まではっきりとはわかんなかったけど、確実に今は右腕しか首に回されてない。
さっきも、転んでばっかりでうまく使えなかったみたいだし。
「………」
「けが、」
してるの?と問おうとした言葉を遮るように、後ろから聞こえる声音。
「…うん。だから、あんまり動けないから…俺のためにここにいてくれる?」
「…っ、」
吐息混じりに耳朶を擽るその声に、体の芯が熱せられた。
遊びに行こうとして、でも行けなかったことに対するしぼんだ気分は一瞬で別のものになる。
「わ、わかった!やっぱりやめる。遊びいかない!」
「ありがとう、まーくん」
「べ、べつにお礼なんて言われること、ないし…」
前言撤回。
いとも簡単に自分の数分前の言葉をポケットにしまいながら、振り返って、前からハグハグとその身体に腕を回す。
きゅ、とその背中を抱いた指でくーくんの服を握った。
「素直にくーくんの言うことに従ったおれ、偉い!」
「そうだな。まーくん偉い。凄く良い子」
えらいえらいとよしよし頭を撫でられてえっへんむふふと誇らしげな気分になった。
どやどや。と胸を張るおれに、よしよしと頭にのった手が優しく動く。
ふへ。ぐへへ。
くーくんに頭を撫でてもらえたら、それだけで全身が蕩けてしまいそうだ。
目に見えないしっぽも滅茶苦茶揺れた気がする。
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