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音が遠ざかっていくのを聞いて、安堵して無意識に緊張していた身体から力を抜いた。
思いのほか自分が考えていたより身体全体が緊張していたようで、ふらりと視界が揺らいで倒れそうになった。
床に手をついてそれを堪える。


「……」


はぁと大きく息を吐く。

……まだドキドキしてる。

彼女と一緒に部屋にいた瞬間から、思っていたよりも呼吸がうまくできなくなっていたらしい。

肩の力が一気に抜ける。


(…椿さんって、終始笑顔なのに、やけに威圧感があって少し怖かった)


それに、最後に呟かれた言葉。

あれって、そういう意味…だよな。
あの人が男の人だったことにも驚いていて、もう何がなんだか分からなくなりそうだった。

思考が状況についていけない。

でも、多分。


「……あのひとが、”彼女”」


閉じられた扉を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
推測だけど、そんなような気がした。

蒼の初めての”オンナ”の人で、同じ仕事をする同業者。

(俺は蒼が高校に行きながら、仕事をしているということさえ知らなかった。)

ただ、知ろうとしなかったのか、知ることがないようにされていたのか。

―――――――――――――

俺は、蒼のことを何も知らない。

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