32
――次の日。
「やだ」
「…まーくん」
「いやだー!」
ぷいとそっぽを向く。
(…絶対、無理…!!)
最早ほとんど涙目になりながら、ぶんぶん首を振った。
まだ調子が戻らないらしく少し辛そうな表情をしている彼が、ため息を吐く。
こんな風に、かれこれ5分くらい言い争っていた。
何について、かというと
「まーくん、流石に何か食べないと…」
「…お腹空いてない」
ぽつりと言葉を零す。
……目の前にある、ご飯(くーくんが作ってくれたお粥)について、で。
逃走しようとしたのを、腰に回された腕によって妨げられて、現在膝の上に乗せられている。
ぎゅううと腰にある腕のせいで抱きしめられてて…ぐ、苦しい。逃げられん。
「でも、また腕から点滴つなぐの嫌だろ?」
「……それは、やだ」
前も、何食べても出てきちゃうからって言われて、手首のもっとこっち側からなんていうのかわからないけど、線?みたいなものをつなげられた。その時に刺された針が凄く痛かった。
確かに、あんまり空いてる感じないけど事実としてご飯をしばらく食べてないからか、ふらふらするし、頭もズキズキ痛い。
…でも、本当にお腹空いてないし、食べたいって感じもない。
胃がきゅううってなって、限界まで狭くなってるような感覚だった。
唇をとがらせて、後ろの身体に背をもたれかけさせる。
「食べなーい!もうお腹いっぱいー」
「…まだ一口も食べてないんだけど…」
こうやってぶーぶー文句いえるのも、くーくん相手だからだろうなって、何度も思う。
「…くーくんー…」
「…そんな目で見られてもな…」
縋るように顔を後ろに向ければ、「俺がいない間も食べてなかったはずだし、しばらく何も口にしてないから…」と眉を下げた。
それを言ったらくーくんだって同じはずなのに、自分は病院で食べてきたからいいんだって言い張られてしまった。
…その時のことを見てないから、くーくんが食べないならおれも食べない!とは言えなくなってしまって、結局この状況になった。
でも、
それを見て、俯いた。
…水だけだったらまだ飲める。
だけど、今食べたらまた吐きそうだった。
(…なんかずーっと口の中?とか、胃に変な感じが残ってる気がする…)
こびりついて、取れないもの、みたいな。
なんでだろ。何か変な物でも飲んだっけ…?
こてんと首を傾げて、「…うー…」と唸ってから頷いた。
「…くーくんが作ってくれたから、食べる」
相変わらず左腕は使えないみたいなのに、それでもおれのためにキッチンで頑張って作ってくれた。
…くーくんが、おれのためにしてくれた。
だから、わがままばっかり言ってられない。
「うん」と嬉しそうな表情で微笑むくーくんに、うぐぐ、と胸を矢で射貫かれながら、あーんしてくれたスプーンに唇を近づけた。
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