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せっかく、作ってくれたんだから。
作って…くれたんだから、と、どうしても怯んでしまう気持ちを奮い立たせながら、ぎゅっと目を瞑った。

ちょっとだけそこにのせられたお粥を、恐る恐るぱくりと口に含む。
入ってくる、…べたべたした、もの。


「…っ゛、」


舌に触れた感触に、…やばい、と一瞬で思った。
閉じた唇の外に押し出そうとする舌にだめだだめだと頭で命令しながら、必死に飲みこもうとして、

ごくん、とやっとのことで、喉の奥に滑りこませた。

『ほらくーくん、おれ食べれた!食べれたよ!』ときっといつもみたいに心配そうな顔をしているだろう彼を安心させようと笑顔を浮かべようとする。


…けど、



「…っ、ぅ、え…ッ、」



胃がぎゅうってなるような感覚と一緒に凄い勢いで吐き気が込みあがってきて、意識するより前に先に唇から零れ出た。
生理的にじわりと滲んできた涙が、ぼろぼろと頬を伝う。嘔吐物と同じように袋の中におちていった。
肩が、ぶるぶると震える。



「…ッ、ぅ、ええ…っ、」

「………」

「…っ、ごめん、ごめん、なさい…っ、」


前もって用意してくれてた袋に、既に吐くものなんかもう残ってないのに、胃酸まで吐いた。
胃が、きりきりする。
背中を擦ってくれる手に、ああ、そういえばおれが今出してるのってくーくんが一生懸命作ってくれたやつだったと、さっきキッチンでその様子を眺めていたときのことを思いなおして、涙がまた零れ落ちる。

塩だって入れてたの、ちゃんと見たのに。

(…粘土、みたいな…味、で……なんで、)

塩っぽい味なんて、まったくわからなかった。
それどころか、不味、…


「…っ、ふ、え、ごめ、なさ、」

「いいよ。…ごめん。やっぱり、まだ無理だったみたいだな」


優しい声音。
…決しておれを責めることなんかせずに、頭を撫でる手。


なんで、怒らないんだろう。おれのために作るのだって面倒なはずなのに、右手だけで作るなんてもっと大変なはずなのに、あんなに、頑張ってくれたのに。


(どうして、おれは…っ)


汚れた唇の端を手の甲で拭い、まだ溢れてくる涙を零しながら、

一瞬、袋の中に視線をおとした。


……と、


喉が、カラカラに乾く。
お母さんに頭上から氷水をかけられた時のように、全身から、手足から、血の気が引いていく。



「…っ、…ぁ、あ、……」


白い、

…何かが、見えた…気がした。

お粥だけじゃなくて、胃酸だけじゃなくて、明らかに、違う、もの、


”お前の飲み物、だろ?”


「―――――ッ、」


耳に届く、誰かの声に、
自分の身体を抱きしめるようにして、俯く。
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