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既に爆発寸前の熱だけを抱えて、ひとりにされた状況に絶望に打ちひしがれた。
どうすればいい、なんて決まってる。


「…っ、」


(くーくんのいうこと、聞か、ないと)


性器の先を指で掴んで、抑える。
出しちゃだめ、出しちゃダメ、出さない、くーくんの言う通りにするんだ…っ。

鈍い思考の中で、それだけが浮かぶ。

心の中で何回も呟いて、念じて、


「…ぅ、むり、も、むり…っら、ぐー、く…っ、おね、おねが…っ、」


脚を閉じた正座みたいな状態で、ドクドクと充血して爆発寸前の性器の先をぎゅうっと掴み、上半身を倒したままひたすらくーくんの出ていった障子の方に懇願する。

(早く…っ、早く、戻って来てくれないと、)

ヒクン…っ、ヒクン…ッ、と腰が、性器が、お尻の穴さえもがヒクついている。


「…っ、ふ、ぇ、、え…っ、ぁ、ひ、も…っ、で、」


泣いてるのか喘いでいるのか最早区別がつかないレベルの声。
ぐっちゃぐちゃに涙で濡れた顔で泣きじゃくる。

呂律の回らない舌で、おねがい、おねがいだから、と何度も願った。

先端を掴む手が、ドロドロに蕩けている性器から零れる我慢汁によって滑りそうになる。

まだ、帰ってこない。戻ってこない。

…だけど、堪えられるはずもなくて、だめだとわかってるのに、しちゃダメだって言われたのに。


「…っ、でる、だし、たい…っ、だしたい、も、げんか…っ、…ひ…ぁ…、ッ、」


がまんできない。したくない。だしたい。


「…や、だぁ…っ、」


ぼろぼろと零した涙が開いた唇の中に入ってくる。
先端を握っている指先の力を緩めた。

もういい、全部どうでもいい、という快感に脳の隅々まで侵食されていたおれの手は、頂点にのぼりつめるためにほとんど本能で上下に扱いてしまった。


ぐちゅ、グチュグチュグチュ…ッ、


「…ぁ…っ、ん…っ、んん…っ、」


驚くほどの速度で、身体の中で膨れ上がっていく。
何かが、クる。


「…ぃ、……っ、――ッ、」


…瞬間、
どぴゅ、と性器から放たれる熱。

ぶるぶると身体を震わせて、解放感に喜んで欲望を放出していく。

びゅくっ!じゅるじゅるっ

上半身を倒して顔を近づけていたせいで、飛んできたものが自分の顔にかかる。


「ぁ、へ…」

(…きもち、い…)


しばらく我慢してたからか、しばらくその勢いは止まらなかった。

唇に飛んだその白濁液が口の中に零れ落ちてくる。
だけど、そんなこと気にならないくらい解放できた感覚の余韻で動けなくなっていた。
崩れた脚が、性器が、悦びに満ちてまだビクビクと震えている。


「……は、は…、ぁ、きもち、よかった……」


吐き出してへにゃりとなった性器に満足感が広がっていく。
はーっと深く息を吐いて、ふらふらとまだぼんやりとした思考で、床に零れている濃い精液に視線を落とした。
浴衣も、汚れ、て……


……と、そこでやっと、

思考がクリアになった。

(…ぁ……おれ、いま、)

自分の出した白濁液で汚れた顔に涙を張り付けたまま、同じ液で汚れている手に目を向ける。

青ざめた。

…瞬間、


「あーあ、出しちゃった」

「…ッ、」


障子の方から聞こえる声。

ビク、と身体が大きく跳ねた。

いつの間に戻ってきていたのか、全く気付かなかった。
顔をあげる。


「俺の言いつけを守らないなんて、まーくんはイケない子だな」

「…っ、ぁ、あう…ごめ、」

「…せっかく瓶持ってきたのに」


少し離れた場所で、こっちを見下ろしているだろうくーくんの姿。

後悔と自責の念によって涙で視界が滲んで彼の姿さえ見えない。

太腿に伝う精液が、床に零れる感触。


「…くーく、…っ、ぐーく…っ、」


両手を、伸ばした。
震える脚を必死に動かして、くーくんがいる場所まで転びそうになりながら走る。

腰に縋りつくように抱き付いて、ごめん、ごめんなさいと謝った。


「…やだ、捨てないで、……くーくん、いなくならな、で、おれ、ぐーぐ、んいないと、」

「……」

「いきで、いけな、から、」

「………」


何も、答えてくれない。

まだ怒ってる。まだ、怒ってるんだ。


「ごめ、なさ…っ、くーくんを、おこらせるような、こと、した…っ、」

「…どんなこと?」

「せ、せーえき、くださいって、…も、あんなご、とにど、といわない、から…っ」


濡れた瞼と頬を擦りつける。
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