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布団の上に寝ころんだまま、見慣れた天井を見上げる。
「…うー…」
…頭がズキズキする、
手足が熱くてジンジンして、痺れてる感じがする。
けど、
今はそんなことより重要な問題があった。
「………くーくんが、帰ってこない……」
ため息と同時に熱い吐息を零す。
ずっと、もう何十分も待ちぼうけにされていた。
…ていうか、最近くーくんが部屋からいなくなることが増えた。
む、むむ、と頬を膨らます。
「にゃー!」
ちょっとはマシになって熱を下げ始めている頭に冷えピタ?を張り付けたまま鬱憤を晴らすような猫の鳴きまねをしながら、ごろごろと畳の上を回転する。
くーくんが傍にいない、のだ。
なんか、よくわかんないけど、また大事な用…?とかで、どこかへ行ってしまった。
「…くーくん、お出かけ?なら、おれも一緒にいく!」と今度こそついてってやる!としっぽふりふりでついていこうとしたおれの頭を撫でて、「いい子で待ってて」なんて格好いい顔で微笑むから、ちょっと流されそうになってしまった。それでも不満でぶーぶーと唇を尖らせた。
だけど、結局言いくるめられてしまって、…この状態。
でも
…でも、
「おれより大事な用事って、いったいなんじゃー!!!」
大きな声を張り上げて、げほ、げほ、と熱い喉を咳き込ませる。
うぐぐ、許せん。ゆるさん。
それに部屋のドアの鍵をかけられていってしまったから、探しにいくことも、遊びに行くこともできない。
なんなんだくーくんは。おれのこと、なんだと思ってるんだ。
…おれ、別にわるいことなんてしようとしてないのに。…閉じ込めなくてもいいじゃないか。
膝と両手を床についたまま、威嚇するような体勢でぐるっと部屋を見渡す。
…ここにいると、残っている…くーくんの香り。
悔しさの腹いせ(?)に、昨日一緒に寝たお布団がそのままで、「…、ふへ、へへ…」くんかくんかとちょっと匂いを嗅ぐという変態じみた行動をしてみた。
(…いい匂い…)
………それに、
「…ぐわー!もう考えるのやめい!」
ぶわあっと熱くなる頬に、見悶える。
ごろごろごろと部屋中を転がって、ぼふんぼふんと顔を布団に押し付ける。頬を手で押さえた。
あの日、くーくんが、その…おれに、え…えっちなことしてから、どうにも、…どうにも、彼の色っぽさばっかり目についてしまって、…整った顔とか、唇とか、程よく鍛えられた身体、とか、綺麗な黒髪、とか浴衣から覗く透き通るような肌、…とか、
「…う、わわ…!」
邪念を振り払おうとぶんぶん顔を振る。
い、意識するとどうしても下半身が…反応、するから、……な、何故こんなことになった。と思わずにいられない。
こうしてキョドってしまうおれとは正反対にくーくんはいつも通りだし、…なんか癪だ。むむむ。
「…そうだ。おれもくーくんを、誘惑、してみる…とか、」
ピン、と良いことを思いついた。
がばりと身体を起こす。
うぬぬ、と顎に手を当ててかんがえてみる。
………それにしても、誘惑ってどんなことをすればいいんだろう。
…、ああそうだ。あの女の人がお父さんとか…おれにやってたこととか、どうだろう。あれは誘惑?ってやつになるかも。
あ、でも、
「……むね、」
今気づいた。使える胸が、ないではないか。
女の人じゃないと、あれはできない。
…それに、他の部分でも女の代わりになれるところなんかない。
浴衣をめくって見える自分のぺったんこな胸を見下ろして、「……」…もしかしてくーくんも大きい胸の子が好きだったりするのかなとか考えて勝手に泣きそうになったので、…うじうじと袖で瞼を拭う。
…くーくんの、すきな、…ひと。
いるの、かな。
ああやって、おれに言ってくれる”好き”じゃなくて、ちゃんとした…そういうの、で、
(…たとえば、まえおれのこと、助けてくれた人…とか、)
ズキリ。
「…………、あー、ぅ…」
痛い。痛い、から、
…もう、…やだ。
胸元をぎゅうと握って下唇を噛む
…と、
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「柊様?いらっしゃいますか?」
「…っ、は、はい…!!」
驚いて、思わず返事する。
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