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(…くーくんは、酷いよ)
だって……あの時は、
”俺”を監禁してたときは、あんなに言ってくれたのに。
『ずっと傍にいて』って、『他の誰より、自分のことを好きになってほしい』って、
全部思い出して、また自分を必要としてほしいって、
……何度も何度も…そう言ってくれてたのに。
なのに、やっとのことで戻ってくることができた”おれ”が必死に…『くーくんが必要で、好きなんだよ』って答えても、否定して、受け入れてくれない。
（なんで…？）
ざわり、と胸騒ぎがする。
嫌な、感じがする。
「…（一緒の好きじゃないって、どういう、意味…？）」
昔はあんなに好きだよって、恋人になってって言ってくれた。
けど、
…最近くーくんは好きって言ってくれなくなったし、恋人の話に触れさえしない。
（おれのこと、好きじゃなくなった…？）
思い浮かんだ思考に、さぁっと血の気が引く。
なら、
もしそうだとしたら、じゃあなんでさっき襲いたくなるって、失いたくない、…って言ったの？
「…っ、」
彼の心が、わからない。
わからない。
わからないことが、こんなにも苦しくて…辛い。
心臓がぎゅうってなって泣いてしまいそうになる。
こんなに好きだって言ってるのに。
大好きだって言ってるのに。
何が、足りないんだろう。
どうして、伝わらないんだろう。
（おれが、”俺”じゃないから…）
ぽつりと湧き上がる疑問。
「…おれが、…色々忘れてて、どっかおかしいから…、そんなこと言うの…？」
「…っ、そういう意味じゃ、なくて、」
ぴくりとその言葉に反応して表情を変化させるくーくんに、胸が締め付けられた。
「…いいよ。自分でも…わかってるから」
自分の何かがおかしいってことくらい。
へらりと笑って、ふるふると首を振った。
だって、本当に記憶…ところどころしかない、から。
そう思われても仕方がない。
知らないうちにこんなに身体が大きくなってて、痛いことばっかりで、………怖くて堪らなくなるときもある。
…だけど、おれはくーくんさえ傍にいてくれたらそれでいいから。
それだけで怖いことなんてどうでもよくなるから。
なのに、
「っ、」
（どうして、）
ぐ、と唇を噛む。
思い出さなくていいって言ったのは、なんだったんだ。
…彼が求めてくれていたのは、おれだと思っていたのに。
本当は違ったのだろうか。
今のままでいてほしいっていうくせに、
本当は
「…あっちのおれの方が、…良いの…？」
小さく零れる、苦痛。
だって、今よりもっと沢山傍にいてくれてた。
…”おれ”、だから、…だめなのかな。
もしかしたら、今までの記憶のほとんどがあやふやなせいで、くーくんの元々好きって言ってくれてたおれじゃなくなってるのかもしれない。
まだ自分で気づいてないだけで、…彼から見たら、…昔の、一番最初に会った時のおれと違ってるのかもしれない。
…だから、好きの意味が違うってこと…？
一度込み上げた疑念と恐怖は、留まるところを知らない。
(…そんなの、嫌だ。…いやだよ)
「っ、うえ…っ、え…っ、」
涙で溺れそうになる。
ぼろぼろに泣いて何度も首を振るおれに、「まーくん、…どうして、なんで…」と困惑したような声がかけられる。
心配そうに、頬に伸ばされた手に、触れる。
きゅ、と指を絡めて繋いだ。
「あのね、」
「……っ、…？」
「…ほんとに、おれ…は、くーくんのためなら…何でもできるんだよ」
しゃくりあげながら、まとまらない言葉で必死に伝える。
…もう、あの時の…くーくんを拒絶しまくって、傷つけて、苦しめ続けた”俺”とは違う。
「あげられるものなら、全部あげる」
今のおれは、…違うんだってこと、わかってほしかった。
信じてほしかった。
「だからそういうことを、簡単に…っ、」
「……軽い気持ちで言ってるわけじゃない、から」
覚えている。
また、この表情。
泣きたくて、それなのに泣けなくて、だけど見てるこっちが苦しくなるような、…そんな顔。
(…ッ、)
ズク、ン…っ、
痛い、痛い。痛い。
胸が、心臓が、ギリギリと軋む。
怖い音が、する。
……嫌だ。もう、彼にこんな表情をさせたくない。
「ねえ、くーくん、」
「……？」
繋いだ手が、震えている。
それを感じたらしく、戸惑ったように揺れた瞳でこっちを見下ろすくーくんに…「おれ、と…」と言葉を零した。
…一瞬、躊躇う。
けど、霞んでしまいそうになる勇気を振り絞って、震える唇を動かした。
「おれと…えっち、する？」
「…っ、」
驚いたように息を呑む彼に、へらっと緩く微笑む。
わからない。この答え方でいいかもわからない。
……でも、他にどうすればいいかわからなかった。
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