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何故かいつもより鎖の長さを短くされているらしい。
行動範囲が狭いことに違和感を抱きつつ、乱れた浴衣を整えて起き上がろうと手を床につく。

……と、バタバタと走るような足音が遠くから聞こえる。
その音に反応して顔をあげると、カチャリと鍵が解錠される音が聞こえた。

ガラッと扉が開く。


「まーくん…ッ」


顔を上げるよりも早く、強く抱き締められた。

紺色の着物を纏っている彼の、独特といえるほど上品な甘い香りが身体を包む。

その鼓動がいつもより速く脈打っているのを肌越しに感じて、驚いて目を瞬いた。

なんでこんなに慌ててるんだろう。



「え、っと、」

「……よかった……」

「蒼、…?」


珍しく息を切らすその様子に、唖然として、抱きしめられたまま顔を覗き込む。
どうしたのかと問うようにそう名前を呼べば、ほうっと大きく安堵するように息を吐くから、逆にこっちが混乱してしまう。


「良かった。…何かあったかと思った…」

「なにかって、」


何があったと思ったんだろう。
こんな閉じられた部屋で、何かあるわけないのに。

……前、俺にあった出来事のことを気にしているのだろうか。

でもこの部屋は、前の部屋とは違う。
人ひとりも通り抜けられないような窓しかない。

そして、唯一廊下に出る扉でさえ、昨日はなかったはずの鍵が取り付けられているのだから、何かあるはずもなかった。



「物音がしたから、」

「…ちょっと、寝ぼけて転んだだけ」


本当は鎖のせいなんだけど、とは言いづらかったので転んだことにしておく。
俺の言葉に蒼が見てわかるほど顔色を変えて、その表情の変化に驚く。


「どっか打った?痛いところある?」


心配そうに見つめられて、首を横に振る。
ぺたぺたと顔や頭を触られてくすぐったい。

真剣な顔に、こっちが逆に変な気持ちになった。
…こんなに心配されると思ってなくて、なんか居たたまれない。


「ううん。大丈夫」

「…そっか。よかった…」
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