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「触れると、我慢できなくなる」


首筋に唇を這わして、下がっていく柔らかい感触に、小さく悲鳴にも似た声が漏れる。
浮いた鎖骨に到達して、汗ばんだそこをなぞるように舌先を這わされて身体が震えた。
俺が抵抗の声を上げても、舌は離れるどころか、ますます下におりていく。


「や、ぁ…っ、やめ…っ、その、血、何…っ、」

「…あー、急いで来たから綺麗にするの忘れてた」


何でもないことのようにそれを拭ってから、喉の奥で笑う蒼が血の気の引いた俺の頬に触れて、優しく撫でた。
包むようにそこに手を添えて、ひどく愛おしそうな表情を零す。

”綺麗にする”って…、まさか。

サッと血の気が引く。


(もしかして、さっき部屋の外から聞こえてきた悲鳴って、)

強張った俺の頬にキスを落として、彼は妖艶な微笑みを浮かべたまま俺の唇を塞いだ。
優しく吸い付かれ、口内の味や反応を楽しむようにクチュ、クチュ、と舌を絡められて、じわ、と下腹部に痺れが走る。


「…っ、ん…ッ、ぁ…っ、…っ」

「だって、まーくんに触った害虫をそのままになんてしておけないだろ?」

「…は…っ、がいちゅう、って、」


しばらくしてようやく離れた唇。
肩で息をしながら、…蒼のしたことを理解する。

…昨日、襲ってきた男の人の声だったんだ。


「………震えてる…」

「………っ、」

「大丈夫、俺がいるから安心して」


優しい声とともに、抱きしめられたまま髪を撫でられる。
誰のせいだと思ってるんだ、と心の中で呟いて、蒼を見上げる。


「…教えて欲しいことがあるんだけど、…」

「何?まーくんの知りたいことなら、なんでも教えてあげる」


蒼に聞きたいことは沢山ある。

どうして、そこまで俺を閉じ込めようとするのか。
椿さんのこと。
どうしてあんなに昨日の朝、様子がおかしかったのか。

聞くために口を開きかけて、躊躇う。
スーツの男の人は、”椿さん"を俺に会わせたことがばれたら殺されると言っていた。

本当に、蒼がそんなことするとは、限らない、けど…。


「……」


上機嫌に目を細めている蒼を見つめて、迷って、結局違う言葉が口からこぼれ出た。


「この手足の鎖、どうしたらはずしてくれる?」
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