蒼と血と浴衣

その光景から目が離せない。

いや、離したくても魅入られたように離すことができなかった。


…ただ、目に映るのは


視界に入ってくるのは


「…ぁ…」


掠れた声が喉の奥から零れた。

信じられない。見ているものが、信じられない。

その少し発しただけの形にもならない声でさえ、驚愕と恐怖に震えている。


「…あお、い…」


それはまるで一つの絵のようで。


綺麗な黒髪を垂らして顔を伏せている彼は、


人形のように綺麗な顔で、白く透き通る血の気の引いた顔をして、


鮮やかな赤色に染められた着物を身に纏って、


天井の柱に繋がれて腕を軽く上に持ち上げられたまま、


静かにそこで目を閉じて眠っていた。



「……――っ」



息をするのも忘れて、その光景を見続ける。

不意に、その赤色の和服から僅かに赤い雫が滴っているのに気づいて、それをのろのろと視線で追う。

床に零れるものが、”何”かなんて理解できない。

そして、ゆっくりと蒼の着ている服に視線を戻した。


(…なんだ…?)


ところどころ、その赤い服の隙間に雑な暗い紺色の歪な形の模様が見えた。

でも、その形はとても模様と呼べるほどの代物ではなく。


(…違う)


違う。違う。あの赤色は本来の服の色じゃない。

そうだ、蒼は赤なんて着なかった。好まなかった。

それに、普通に色を作って染色してもあれほど鮮やかな赤色にはならない。

鈍い思考で、結論を出す。


「……………(ああ、そうか)」


そこまで考えて、鈍い頭が、やっとその違和感の正体に気づく。


(あれは、きっと浴衣を全てその色に染めてしまうほど零れ出た、)

(……蒼の身体を流れていたはずの)


血液の色だ。

――――――――――――

嗚呼。

…こんな姿の蒼を見るのは、これで何度目だろう。
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