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でも、ぼろぼろと涙が零れて、嗚咽がとまらない。

思ってた。ずっと思ってた。

こんなの、友達じゃないってずっと思ってた。

でも、蒼が好きでいてくれて、俺を友達にして、大切にしてくれたから、…そう思ってたから、どれだけ嫌でも、逃げ出たいと思っても、…蒼が友達でいてくれたから。傍にいてくれたから、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれたから…我慢できた。

髪を掴んでいた手が離れて、頭を撫でられる。
いつも鋭かった声音が、少し優しくなった。


「あいつが、お前を大事に思ってた?そんなわけねえだろ。お前は道具だったんだ。性欲処理の、オナホの一個だったんだよ。」

「捨てられた…?おれ……が…あおいに……すてられ…た…?」


ぽっかりと穴があいたように、心の何かが抜け落ちてしまったような感覚にとらわれる。

”ずっと一緒いる”

その言葉を、信じてた。
俺の前からいなくなったのだって、きっと何か理由があるのだと信じてた。

…それが、まさかこんな理由だったなんて。

そう言ってくれた時の蒼の優しい笑顔が、消えていく。
遠ざかっていく。

…そうだ。きっとあれも、全部嘘だったんだ。
俺のことを、騙そうとしてそんなこと言ってたんだ。

だって、蒼は俺を初めて犯した時だって。
ずっと俺の苦しむ顔が、泣いた顔が見たかったって言ってた。

…もしかして、あれが本心だったんじゃないのか。

一度疑い始めた心は、とどまるところを知らない。


「可哀想にな。お前も、ずっとアイツに騙されて心まで他の奴らと同じようにあやつられちまって」

「…っぅ、ぁ゛――…っ…」


慰めるように、ポンポンと頭を軽く叩かれる。
静かに流れていた涙は、その穏やかな声によって大きな嗚咽に変わる。

後ろから抱きしめられて、俺が泣きながら腕を伸ばしてその身体を求めれば、抱きしめてくれた。
いつもあんなに殴られて怯えていたはずの相手なのになぜか今は怖く感じない。
逆にいつも怖かったから、自分が今とても優しくされているのだと感じる。


「お前に選択権をやる」

「…っ、せんたく…けん?」

「このまま自分を捨てた一之瀬蒼が助けに来るのを待って、ずっとありもしない夢を見続けるか。これからずっと俺のモノになるか」

「…っ」

「俺は、お前のことがまぁまぁ気に入ってんだ。優しくしてほしいってんなら、それを叶えてやってもいいんだぜ?」


涙を流しながら、身体を離す。
初めて、男の顔を見た。

ぼやけていて顔はよく見えないけど、案外歳が離れていると思っていたのに、自分より少し上ぐらいじゃないかと感じる。

猫のような、切れ長の瞳が俺を見つめている。
目を逸らすように俯いて、その身体に腕を回す。


「…っ、やさしく、しないでください。痛くて、いいです…。もう、何もわからないように、してください…」


むしろ全部記憶を消すくらい、酷くしてほしかった。
もう何もわからなくなりたい。
記憶を消してしまいたい。


「本当に、後悔しないか?」

「はい…いいです。…そばにおいてくれるなら…なんでも…します…」


最早自分で何を言ってるのか理解していなかった。

でも、捨てられたくない。
それだけはもう嫌で、相手を引き留めたくて、俺を見てほしくて、そんな言葉を吐く。


「そうか。従順な家畜は嫌いじゃねぇ」


ご主人様にしては、珍しいほど機嫌の良い声。

俺には、まだ居場所がある。
例え蒼に捨てられたって、見放されたって。

まだ、俺にはいてもいい場所がある。


「…っ、ぅ、」


嬉しいのか悲しいのか、目から溢れる涙がとまらない。
違う。きっと嬉しいんだ。俺は嬉しい。

だって、まだ俺にはごしゅじんさまがいてくれるかぎり、存在価値があるんだから。

(……)

ゆっくりと頭を撫でる手に、蒼を思い出して。
でも、その記憶を消すようにぎゅっと目を瞑った。

―――――――

俺は、もう一人になりたくない。
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