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「やめ…っ、」
足場の感覚がなくなるような錯覚に陥る。そのナイフを持つ手を急いで掴み、制止した。
「まーくんがいらないって言う俺なんか、俺もいらない」
「何、言って、」
そんなこと言ってない。
ただ、鎖をはずしてくれないかって聞いただけなのに。
身体が震える。
まるで世間話でもしているかのように、感情のない瞳で淡々とそう言い放つ蒼に、違うと首を横に振った。
「離れるくらいなら、死んだ方が良い」
「違う…、違うから…!!」
声の出る限り強く叫んで、掴んでいる手が絶対に動かないように力を入れる。
手首の枷につながる鎖が揺れて、じゃらりと不快な音が鳴る。
「……ッ、」
俺が、言いたかったことは。
蒼から離れたいとか、蒼のことが嫌いだとか、そういうことじゃない。
蒼は、何も教えてくれないから。
"まーくんは見なくていい。聞かなくていい。他のことなんか気にしなくていい。"
……そればっかりで。
蒼は、特に夜…寝てる時とか、すごく苦しそうにうなされていることがよくある。
椿さんに会う前日の夜だって、……明らかにいつもと様子が違った。
だから、何かあるのかと聞けば、「なんでもない」って教えてくれなくて。
彼から視線を逸らせば怒るくせに、本当に蒼のことを知りたいときはいつもはぐらかそうとする。
そう言って遠ざけようとするから。
(…このままだったら、俺と蒼の関係は一生変わらない気がする)
…そんなの、嫌だ。
こうやって鎖で繋ぐような関係だからこそ、蒼は何も俺に話してくれないんだろうと。
また昔みたいに鎖なんかない、普通の関係に戻ることができたら、もっと何か話してくれるんじゃないかって。
……そう思った。
でも今、結局蒼はそんなこと全く考えてもいないんだって分かってしまった。
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