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「あおい…っ、聞いて」
すこし刃が触れたその綺麗な白い首筋から、血が流れる。
首筋から垂れたそれが、蒼の着物に少しずつ滲んでいく。
それでも、手の力を緩めようとしない蒼に焦って、どうすればいいかわからなくて。
出来る限り自分の想いが伝わるようにと一生懸命考えて、喉から声を絞り出す。
「俺は、…っ、ただ、蒼が困ってることがあるなら、力になりたいと思ったんだ…!!」
こんな鎖でつなぐような関係じゃなくて、前のような、友達として。
学校にいたとき、蒼に沢山助けてもらったから。
こんなふうに閉じ込められても、そう思ってしまう。
それに、蒼が俺のことが嫌いで、危害を加えようとして閉じ込めたわけじゃないことが分かるから。
だから、結局逃げ出せない。
多分蒼がもっとひどい奴で、俺のことを毎日殴ったり蹴ったりするやつで、見ず知らずの男だったらすぐに逃げるか、自殺でもしてたんだろうと思う。
蒼は、こんなことをするような人じゃなかった。
そうやって、蒼が誰かのことを”害虫”なんて言って酷いことをしようとするのだって、きっと理由があるはずなんだ。
優しい蒼が、そんなことするわけない。
何か、…何かが蒼にあって、そのせいでこんなことするんだろうと、そう思った。
そう信じたい。
「……」
蒼がこっちをじっと見据えているのを感じて、変に鼓動が早まる。
ここで言葉を間違ったら、躊躇いなく、脅しではなく本当に蒼は刺すんだろう。
初めて会った時からそうだった。
冷酷と感じてしまうほど冷たく美しい顔に比べ、儚げな空気感をもっている蒼は目を離せばすぐに死んでしまいそうな、そんな危うげな雰囲気を纏っていた。
「…なんで、」
蒼の瞳が、一瞬動揺したように揺らぐ。
「…や………り………」
そして、俯いて、小さな声で何かを呟いた。
それは、聞き取れないほど小さな呟きで、聞き取れない。
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