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…その明確な拒絶に、目を瞬く。
「………は、」
「嫌だ…ッ!!くーくんじゃないと、やだぁ…っ!!」
嗚咽を漏らしながら涙で顔をべとべとにし、水滴を散らしながらぶんぶん首を振って否定を示した。さっき触れた唇の感触を消そうとしてるのか、ごしごしと袖で拭っている。
俺に掴まれている部分が真っ赤になっても、それに構わず手を捩って離そうとした。
「なんでだよ…っ!なんで、そこまでアイツなんか」
意味わかんねぇと語尾を荒げれば、家畜がへにゃっと眉を垂れさせる。
「…ッ、くーくんは、おれをたすけてくれた…!いっぱいやさしくしてくれて、だいすきっていってくれた!そばにいてくれた!…だから、おれもくーくんがいちばんだいすき…っ、だから!」
「…っ、」
興奮からか頬を赤らめ、溢れ出る涙を堪えるようにぎゅっと瞼を瞑った。
よく溺れねえなと思うほど、目から垂れた水が唇から口の中に入っている。
「だいず、ぎ…っ、で、…っ、ずっと、いっしょ、いだい、ひ、く、のに、」
次第に音は萎んでいって、明瞭でないものになった。
それから、一際涙を流し、思わずこっちが息を呑むほど張り裂けそうな表情をする。
「――ッ、ひ、ぅ」
手を掴んでいる俺の視線から逃れたいのか、ふいと顔を背けた。
「こいびと、なる、って言った…っやくそく、した、のに…っ!ぐーぐんは、っひ、く…れいを、え゛ら゛んだ、がら…っ」
むせび泣くように喚きながら、より大きく震え、「ぃ゛、っ」痛みを堪えるように胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
血の滲むほど唇を噛んで俯く。
「…………?」
(……今、なんつった?)
今の台詞の中にひっかかる単語があったような気がする。
自分から聞いたくせに返される言葉にイライラを隠せないまま聞いていたせいで、一瞬反応が遅れた。
「…は?…えらんだ…?」
「…おれとえっち、するって言ってたのに、…っ、
なのに、れいと、した、けど、でも、おかあさんも、おと、さん、も、みんなそうだったし、おれ、なんかが、いちばんに、なれるはず、ないって、そんなもんだっで、わがってるけど…ッ、」
早口で捲し立てられる台詞は、話すたびに嗚咽が余計に酷くなった。
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