18

「…っ、」


(…ああ、そうだ)


そういう行為をすることで、くーくんの役にたてるんじゃないか。

もしかしたら、ちょっとでもくーくんに幸せを感じてもらえるんじゃないか。

……もう、あんな泣きそうな顔をさせずに、心から笑ってくれるようになるんじゃないか…なんて。


そんな驕ったことを考えてた過去の自分がバカみたいだ。

泣きながら自嘲ぎみにへらりと小さく笑いながら、は、は、と不規則に息を吸う。
何度も手を振りほどこうとする。



「…っ、くーくんがそうしろっていうなら、それでくーくんが喜んでくれるなら、前みたいに優しくしてくれるんだったら、するから…っ!」


『だから、ちゃんとできたら、またいい子って偉かったねって頭撫でてほしい』


そう言おうとした口が、小さく震えすぎて、言葉にならない。


お父さんみたいに。
お母さんみたいに。
お姉さんみたいに。

せんせいみたいに。



(…褒めて、褒めて褒めてほめてほめてほめてほめられたい生きてていいんだっておれはしななくてもいいんだってだからほめられたいほめられないといきてる意味が意味意味意味…)



「……ちゃんと、できる、から…っ」


やりかた、わかるよ。
だって、おれの身体はそういうことをされ続けたせいで汚いんだから。

こんなんじゃ、どっちにしろくーくんとなんてもうできない。

たとえこの人としなくたって、くーくんとえっちできる機会なんて、もうおれにはない。

…だってくーくんが汚れるから。汚くなるから。汚いって言われたくないから。嫌われたくないから。


…きっと、くーくんは知らないんだ。おれのことを。


おれは汚れてる。

みんながおれの身体を使った。

みんながおれの身体で遊んだ。

みんながおれの身体を穢した。


…知らなかったでは赦されない。

だって、約束したんだから。

くーくんとするはずだったのに。
くーくんが一番最初のはずだったのに。

本当なら、くーくんに『愛してる』って言って抱きしめてもらうのは、…おれのはずだったのに。


「……ッ、ぃ゛、た……、…ぁ……れ…?」


胸だけじゃない。
びり、と目の裏に痛みが走った、瞬間


…どろり…何かが手を濡らしたような感触がして

真っ黒。真っ黒。身体が全部真っ黒に汚れてて、何も見えない。


……何も、見えない。
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