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なんで、こんな…に、ここまで血が出るほどの傷ってどうやったら、
(…”あの時”の、怪我…が、)
一瞬何かの映像がだぶる。
「…ッ、な、に…?…いま…の、」
ああ違う。違うとすぐに首を振って打ち消した。
今はすべきことを考えないと、だめだ。
でも、結局一人じゃできることなんかなくて、どうにもできなくて、ほとんと泣きながら誰かに助けを呼びに行こうと部屋を出ようとした。
…と、
「…失礼いたします」
ガラリと障子が開く。
さっき廊下で見た黒い服の人達がぞろぞろと入ってきた。
呼びに行ってないのに、どうやってわかったんだろう。
ほとんど意識がなかったくーくんはあっさりとおれから引き離されて、どこかに連れて行かれそうになる。「お、おれも、」と慌ててついていこうとすると止められて、腕を掴まれて強引に引っ張られた。
くーくんがいる部屋を出て、反対方向に廊下を引きずるようにして歩かされる。
「え、ちょっと、」と困惑して戸惑っている間に、どこか知らない部屋に雑に放り投げられた。
「…ぃ゛…ッ、」
コンクリートのように床がぼこぼこしているせいで、余計に皮膚が床と擦れて熱を上げて、
ただでさえ痛みのあった身体は悲鳴を上げて、激痛に勝手に涙が零れる。
その間に、その人はきちんとした治療をするために病院って場所に連れていくとだけ言って扉を閉めてしまった。
それだけで、明かりのないこの部屋は真っ暗になる。
「…っ、ま、待って!」
ガチャン、と鍵のような何かがかかった音がして血の気が引く。
(閉じ、こめられた…?)
「なんで、なんでこんな、場所に…っ、」
急いで扉を開けようとして、ぺたぺたと見えない視界のなか、手で探る。
「…え、」すぐにドアノブがないことに気づいた。
ゾクリ、と背筋に寒気が走る。
「出して!誰か!」と叫んで扉を叩いても、ただ金属を叩く音が耳に跳ね返ってくるだけで、耳を澄ましてみても他には何の音も聞こえない。
「や、やだ…ッ」
焦りが、募る。
ここから、二度と出られなかったら、
ずっとこのままだったら、
…そう思うだけで生きている心地がしない。
それに、…おれのことだけじゃない。
そもそも、大丈夫なのだろうか。
……本当にくーくんは帰ってくるのかな。
全部、嘘だったらどうしよう。
あの人たちの言ってたことが全部嘘で、今頃はもう――
なんて、考えが湧き上がって、
「開けて…!!誰か、誰か…ッ」
何度も何度も、声が枯れるまで叫んで一向に開こうとしない扉を拳で叩いた。
皮が擦り剥けて血が肌に滲む程やっても、何も起こらない。
辺りを見回しても、ほとんど見えないくらい真っ暗で、しかも凄い悪臭がする。
「…っ、うぇ、ぇ…ッ、やだ…嫌だ…っ、」
こんなどこかもわからない暗闇に取り残された寂しさと不安で胸がいっぱいになって、涙がぼろぼろと頬に零れ落ちた。
「…くーくん…くーくん…っ、くーくん…!」
ドン!ドン!
扉を拳で殴るようにして叩く。
助けに来てくれるはずがないのに、くーくんが助けに来れる状態じゃないってわかってるのに、他に呼べる人もいなくて、「…っ、」それをずっと続けていると次第に声も出なくなって、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
「ぅ、ぇ…ッ、」と扉に押し付けたままの手に縋りつくようにして、泣く。
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