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なのに、今は


「――――っ゛、」


ああ、違う。

なのに、じゃない。

…『だから』、なんだろう。

いまは、…その、おれに触れている感触が、香りが、

……優しくて、大好きなはずの 彼の  体温が、


(…ぁ、あ、なん…で、)


「…違う…」

「……っ、」


ぽつりと唇の間から滑り落ちた言葉。
”それ”に対して、すぐ近くにある心臓が嫌に大きく跳ねる。

けど、おれがそれに気づけるほどの余裕はなくて

どちらかといえば自分の台詞にそういうことかと納得していた。


「…違う人、だからだ」

「…っ、え…」


もう一度、ちゃんと呟いてみたらすとんと胸の深い部分に落ちた。


「…っ、はは、あはは、」


…匂いも同じなのに、抱きしめられる感触も、一緒なのに。

こんなにも『違う』のは、そういうことなんだ。

そう思ったら、悲しみに溢れた喉が涙を飲みこんで更に熱を持った。

だって、


「……こんなの、くーくんじゃない」

「…っ、!」

「ね、そうなんだよね。知らないお兄さん」


顔を上げて、おれを抱き締めてる人にへらりと笑いかける。

だから、仕方ないんだ。

あんなことを澪としてたのも。
あんなふうに澪に触れてたのも。

…今、その手でおれにふれてるのも。

”違う”から、仕方ないんだよ。

乾いた笑みが、絶望に似た感覚が、身体の中の何かを引き裂いた。
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