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くーくんの聞き方も、普段と違う。
声色が、なんとなく、違う。
「…っ、」
…顔を、上げられない。
覚えてないんだから、いつもみたいにすぐに答えなくちゃいけないのに。
…おれは何も知らない。
くーくんに好きな人がいるってことを知らない。
おれと離れたがってるってことも知らない。
全部、知らないんだから。
時折見るその表情に、もしかしてばれてるんじゃないかって思ったりもした。
けど、絶対に覚えてるって言っちゃいけない。
言ったら、終わってしまう。
…おれとくーくんの関係が、壊れる。
「…まーく、」
「好きだよ」
何かを言われる前に、笑顔を作って気持ちを伝えた。
(…まずい、)
言葉にした瞬間、そう思った。
どろ、とした感情が、零れそうになる。
…溢れてしまう。
好き。
好きだと想う、気持ちがおれを汚して、
「何?心配になったの?くーくんは可愛いなぁ!」
「……」
手を伸ばし、よしよしと頭を撫でながら、亀裂が走る。
身が、裂ける。
どうして、おれじゃだめなの
…なんで、澪を選んだの
「奥さんなおれは、お料理頑張って作るので、旦那さんくーくんは良い子で待ってるんですよー」
おれはくーくんだけでよかったのに。
くーくんも、おれだけでいいっていってくれてたのに。
やっぱり、女の子の方が良かったんだ。
…おれじゃ、だめだったんだ。
せんせいも、おれとああいう行為はしたけど、…おれのことを好きなわけじゃなかった。
お母さんも、お父さんを好きなだけで、…おれを好きなわけじゃなかった。
…くーくんも、澪を好きになって、おれを必要としなくなった。
こんなに、好きなのに。
ずっと一緒にいるって約束したのに。
「ほら、ここで座ってゆっくりしてて。左腕うまく動かないんだから、安静にしててください!」
…『好きじゃない』よ。
もう、好きじゃない。
そう言ったら、どうなるんだろう。
お別れする?会わないって、…いらないって言われる…?
そうなったら
――もう、誰にとっても要らない子になったおれは、どうやって生きていけばいい…?
わからない。
どうしたらいいのかわからない。
(……、ある…?)
おれに、今…意味ある…?
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