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事態の把握より先に身体が震えた。

――――知らない男が、俺の口を塞いでいる。


「静かにしろよ」


低く嘲笑ったその男にぶちぶちと服のボタンを引きちぎられる。

暗い茂みの中、冷たい冷気が身体に触れた。
無防備に曝け出される肌に流石に恐怖と嫌悪感が込み上がった。

「やめろ、っ゛!」喉の奥から悲鳴を上げて身を捩るも、今度は馬乗りになっている男とは別に、誰かに手を地面に押さえつけられた。
ギリ、と骨がきしむ程強く握られ、涙が滲む。
足で蹴り上げようとして暴れれば、頬を思いきり強く叩かれた。
口の中が切れ、血の味が滲む。


「抵抗してみろよ。アイツがどうなってもいいならな」


顔を動かし、その目線の先を追って示された場所。


「…っ、いた、もと…くん、…?」


…俺の声に、頭を足で踏まれながら血を流している板本君がこっちを向いている。

その周りには、にやにやと笑う何人もの不良らしき学生の姿があった。


「なんで、こんな…」


あまりにも非日常すぎる光景に、脳が停止する。


「ひいらぎく…、ぐッ」

「だーかーらー、勝手にしゃべんなって言ったろー?」


必死に頭を上げながら俺の名を呼ぼうとする板本君の顔を容赦なく足が蹴りあげて、


「っ、やめ、」

「大きな声出しちゃったら、こいつの首が切れるよー?」


男の一人が俺が近づくのを許さないというように、ナイフを板本君の首筋に押し付ける。
それは異常な光景のはずなのに、板本君にナイフを突きつけている男どころか、周りの男も奇妙な笑みを崩さない。


「…っ、」


少しでも動こうとすれば、その瞬間刃が首の皮に差し込まれるのが分かった。

…俺一人じゃ、この人数には絶対に勝てない。

こんな人目のない暗い場所では、どれだけ殴られたって誰かに発見されることはまずないだろう。

…つまり、俺は奇跡でも起こらない限りここからは逃げられない。
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