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……あの後、胸のうちを全部、くーくんの甘やかで子守歌にも似た声に魅惑されているように…曖昧な意識で話した。
今までのこと全て
屋敷でくーくんと一緒に過ごしてからのこと
澪と会った時のこと、時々見る怖い夢のこと、お風呂場でくーくんを待ってたこと、澪がそこに来たこと、せんせいがいたこと、暗い部屋であの知らない人と会った時にしたこと、
…くーくんが、澪と してるのを見た時のこと、気持ち、感覚、全部
最初に話したのより詳細に
これでもかってほど鮮明に、…考えるのも、言葉にするのも泣きたくなるほど、けれどその声で聞かれると誘われるように零れていって
話し終えると、満足げに彼は微笑んだ。
それから
「でも、」と呟いた後、
表情を 消して
「まだ足りない。俺が望むまーくんは、こんなものじゃない」
「…っ、」
ぞく、とした。
声に感情は一切ない。
温度もない。
ただ、…整い過ぎた顔立ちは、極めて精巧に作られた人形のようにおれをみおろしていて
頬をするり、と優しく、酷く甘ったるい仕草で撫でられる。
着物と同じ色。
サラサラな黒髪が微かに揺れ、妖艶な笑みを深める彼に、
「…っ、」
おれは、…心底、震えた。
カタカタと、小刻みに身体が揺れる。
得体の知れないものが、心に侵食してくる。
「…くーくん、が望む、って、…な、に…」
「もっと見たいな。俺を大好きで仕方がないまーくんの可愛い姿」
何を言ってるのか、わからなかった。
胸が苦しくなるほど綺麗で、美しい微笑みを浮かべているくーくんは、前の笑顔と違う。
…影が、何か裏があるような笑顔が、…凄く、怖かった。
「…ぁ、」
「……?」
小さく零された彼の声に、思考を現実に戻す。
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